第二幕、御三家の嘲笑



「松隆くん、暑いの嫌いそう」

「嫌いだよ、よく分かったね」

「冬生まれっぽいし」

「一月生まれだよ」

「うわー、やっぱり。でも松隆くん、炬燵(こたつ)とか似合わないなぁ」

「どっちかいうと暖炉だって?」

「そうそう。流石自分の王子様キャラ分かってるじゃん!」

「キャラって言わないでよ、内実が伴ってないみたいだろ」

「だって腹の内は真っ黒じゃん」

「ま、否定はしないよ」


 内実と腹の内、そんな機転の利く返事は心地がいい。ふ、と笑いながら、指先に引っかけた鍵を(もてあそ)ぶ。


「桜坂と喋ると頭を使うな」

「私だって松隆くんと喋ると頭が要るよ? 桐椰くんみたいにもう少し単純になろ?」

「あんなのが二人もいたら駿哉が大変だろ」

「確かに。でも松隆くんが二人いるよりは大変じゃないと思うよ」

「桜坂が二人いても大変だと思うけどね」

「んー、私と松隆くんは似た者同士だからね、仕方ないね」


 校舎の外に出れば、廊下から見た通りの西日に襲われる。その眩しさに目を細めながら、そっと息を吐く。感情を隠すのが上手な彼女は、今日も茶化すように笑う。


「さ、帰りましょう、リーダー」


 リーダー、と呼ばれる度に、彼女が御三家に対して引いている線が見える気がする。その線はいつまでも消えることを知らない。その線を消す方法を知らない。


「……そうだね」


 その線が引かれている理由を、知らない。


「そういえば松隆くん、結局私、別荘の場所知らないんだけど」

「あれ、言ってなかったっけ」

「聞いてませーん。別荘の場所どころか詳しい話全然してくれてないよ? 松隆くんの趣味着せられるのは勘弁だから水着は忘れないようにしなきゃ、ってことしか分かってない」

「いいよ、忘れてくれて。遼が目を逸らしそうなの選ぶから」

「桐椰くんは何着ても目を逸らしそう」

「よく分かってるじゃん。したっけ、アイツが海で逆ナンされて顔真っ赤で帰ってきた話」

「え、なにそれ知らない! 詳しく!」

「去年のことだったんだけどね、」


 取り敢えず、今は他に優先することもあるから。帰り道で一緒に遼を笑うくらいの関係が丁度いいということにしておこう。

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