第二幕、御三家の嘲笑
ヤツが頭を向ける側の肘掛に座る。拍子にソファが軋んでもやはり起きる気配なし。そしてその位置に座ると緩んだ胸元が垣間見えてしまった。なんなんだよコイツは! 俺達に対する絶対的な信頼なのか無意識なのか襲われたいのかなんなんだよ!! 何もせずに済むように慌てて全神経をその顔だけに集中させる。そうしてみればそれはそれで、いつも何気なく抓っている頬を観察する機会を与えられたような気がした。
柔らかそう。実際柔らかい気がする。普段触っててどうだっけ。触ってるってか抓ってるから分からない。うずうずした。多分これはセーフだ。
そっと手を伸ばす。普段は抓るばかりのその頬に人差し指を触れた。柔らかいけれど、思っていたよりも柔らかくなかった。そういえば最近痩せたって思ったんだっけ。コイツは、夏になったことと、顔から痩せることを理由にしていたっけ。つん、つん、と指の腹でつつきながら、クラスマッチの日を思い出す。……そのせいで、あの日公衆の面前でコイツの頬を触り過ぎて駿哉にドン引かれたことまで思い出してしまった。お陰で羞恥心が込み上げてきて慌てて手を引っ込める。
すぅ、と相変わらず起きる気配のない寝息が聞こえる。取り敢えず起きた気配はない。セーフ、と胸を撫で下ろす。……何がセーフなんだ。自分でもよく分からない。その寝顔を見ていて答えが出るはずもないのに、じっと眺めてしまう。
相変わらずコイツのことは何も知らない。知らないままだ。コイツも一緒に総の家にいたときに思い返してしまったその事実は、いつだってコイツとの距離を分からなくする。手を伸ばせば、コイツは掌を返すように簡単に背を向けてしまう。そんなことをされてよく考えれば、俺とコイツとの間には見えない境界線があるように感じてしまう。彼女がその手に抱える――それなのに何も抱えてないように見せる――その秘密は、何だろう。