第二幕、御三家の嘲笑



 そんなことを考えていると、不意にヤツは(ちぢ)こまった。寒いのか? 確かにちょっと冷房が効きすぎか……。何か掛けるものを探したけれど、コイツのカーディガンはないし、鞄の中を勝手に漁るわけにもいかないし……。仕方なくクローゼットに向かって、パーカーを取り出す。冷房の温度を上げると暑い、下げると寒い、なんて微妙な日のために置いてある紺色のパーカー。文句は言われないだろう、と戻ってその体に被せた。するとその体がすっぽり覆われてしまって、サイズ感を意識してしまう。よく隣を歩くから知ってるけど、コイツ結構小さいんだよな。遥にも小動物系って言われてたし。俺より二十センチ以上小さいのか、と思えば、その体がすっぽり収まるのも納得だ。急に可愛いものでも見てる気分になって、その頭を撫でてしまった。


「ん……」

「ゲッ」


 すると身動(みじろ)ぎするものだから、慌てて手を引っ込める。……起きたか? じっと様子を伺うが――起きる代わりに、その手は器用にパーカーを(つか)んで抱きかかえた。好きなものでも抱きしめるように、満足そうな顔で、ぎゅ、と。

 何してんだコイツ。普段くそほど(あお)り強いくせに何してんだよ。いつもならここぞとばかりからか(からか)ってくるのがオチじゃねぇか。何をあどけない顔で寝てるんだよ。人のパーカー嬉しそうに抱きしめてんじゃねぇよ。俺を殺す気か。

 胸の中で渦巻く感情が表情に出てしまっている自覚はあって、誰も見てないのに必死に堪えようとしてしまう。こんなの反則だ。普段なら絶対こんな気持ちにならないのに、こんなの――。

 そこで、どうしてか何の気なしに視線を彷徨(さまよ)わせて――……廊下に(たたず)む駿哉を見つけた。

 たっぷり一拍、静止した。いつも無表情の駿哉が僅かに笑っている。ちょっと待て、と愕然(がくぜん)とすると共に顔が火を噴きそうなくらい熱くなった。お前、いつからそこに居やがった。つーかどう見てもずっと見てたんじゃねぇか!!

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