第二幕、御三家の嘲笑
「テメェいつからそこにいやがった……!」
慌てながら、かつ静かに教室を飛び出してすぐその胸倉をつかんだ。だが駿哉は笑みを零したまま「わざわざ時間など見てないが」と白々しい返事をする。
「俺が来たときは桜坂はお前のパーカーを抱えておらず、お前も桜坂の頬に触れるに留まっていたな」
「最初ッから見てんじゃねぇよ!」
チクショウ、何で見てんだよ、つか家に帰って期末の復習でもしてろよ、何で今日に限ってこんなタイミングで此処に来てんだよ。理不尽だと分かりつつも苛立ちを一生懸命ぶつけながら、胸倉を掴んだまま引きずるように駿哉と校舎の外に出た。駿哉は相変わらず意地悪い笑みを崩さないままだ。
「見られたくなかったなら周囲をよく確認したらどうだ?」
「覗き見してるなんて思わねぇだろ!!」
「覗かれて困ることを第六西でするんじゃない」
コイツがこんな笑い方してるってことはよっぽど面白かったんだなおい! 俺のこと虚仮にしやがって!!
「こっ……まんねぇよ! 何もしてなかったの見てたんじゃねーのかよ!」
「お前が桜坂の頬に触れパーカーを被せ頭を撫でたのは見たと言っただろう。誰もお前が桜坂にいかがわしい真似をする様子を見たとは言ってない」
怒りか焦りか、はたまた図星か。自分でもよく分からない感情のせいで駿哉の胸倉を掴む手が震えた。
「ぐっ……くっ、お前本当ッ……!」
お蔭で言葉が出てこない。その隙に駿哉は呆れた表情を織り交ぜながら「次はきちんと確認することだな」と忠告し、俺の手を掴んで外した。
「確認しても常識的によろしくないことは控えてほしいが」
「だからさっき何もしてなかっただろ!」
しねぇよ別に! できるわけねーだろそんなことが! 俺がどんな気持ちで手を出さずにいたと思ってんだ!!
そこではたと気づく。そうだ、今回はコイツに見られたからこれで済んでいるが……。
「あと今の絶対総に言うなよ!」
そうだ、総に知られたら終わる。駿哉なんて目じゃないくらいの嘲りの目を向けるに決まっている。何て言ってからかわれるか分からない。絶対にそれだけは回避するしかない。駿哉は興味なさそうに適当な相槌を打っている。多分コイツなら言わない……とは思う。とはいえ恥ずかしいものを見られたのは事実……。数分前の自分の行動を思い返すと穴を掘って埋まりたくなる。つい出来心で頬や頭に触れた数分前の自分を殴りたい。今度から何かするときは必ず廊下を確認……いや、もう第六西で何かするのはやめておこう……。