第二幕、御三家の嘲笑
「……それは……別に、その……」
「諦めたのか?」
「諦めてはない」
逃げられないから覚悟ができたというよりは、その気持ちだけははっきりしているのできっぱり答えた。顔も朧気にしか覚えていない、声も覚えていない、名前も知らない相手を見つけることを……未だに諦めていないのは、馬鹿だと思う。我ながら馬鹿だな、と、そう思う。
「けど、なんつーか……」
それでも、最近思うんだ。似ている、と。殆ど思い出せない顔が、アイツと似てる気がする。あの時と同じ角度で見れば、似ていると思うんだ。
透冶に怒られるくらいヤバかった日に会った、通りすがりの女の子。気絶していたところでなんとか意識を取り戻したときにいた女の子。なんであんな場所にいたんだろうと思うくらいこの界隈に縁のなさそうな女の子。それがアイツなら説明がつく。幕張匠の彼女だったことはないというものの、そう噂されていたというアイツなら、あの場所にいても不思議じゃない。アイツは何も覚えてないようだけれど、そんなのお互い様だ。もう年単位で前のことなんだ。だから、アイツなんじゃないかと思うんだ。辻褄が合うからアイツに似ていると思うのか、本当に記憶の中の女の子がアイツに似ていると思うのか、どちらなのかは分からないけれど。
「お前の探すその初恋の相手がいま目の前にいたらどうする」
確かめたいと思う反面、覚えられていなかったときのことは恐い。そんなことを考えていたせいで、駿哉のその質問の意味がよく分からなかった。