第二幕、御三家の嘲笑
「くそっ……」
総もいるだろうけど、一応迎えに行くか。手持無沙汰に広げていたノートを鞄に放り込んで教室を後にし、第六西に向かう途中、今度はアイツから個人LIMEが来る。『桐椰くんの声が優しいから起きれなかったー』『パーカーかけてくれるなんて優しいね!』『今日はシトラスの香りだね!』とお決まりの煽り文句が連投されている。こめかみに青筋が浮かぶのを感じた。匂い嗅いでんじゃねーよ恥ずかしいから! 返事をせずにいれば『桐椰くーん?』『私には返事してくれないのー?』と畳み掛けられる。可愛いのはマジで寝てるときだけだなコイツ! ……そう思って自分の思考を心配した。アイツが可愛いなんて、自分の趣味を疑う。一連の煽りをスクショして御三家LIMEに貼りつけ『くそうざいんだが』と送れば、『どうせ顔真っ赤なんでしょって笑われてるぞ。素直に喜んどけよ優しい桐椰くん』と総からも煽りが返ってきた。コイツらのコンビマジで最悪だな!
そんなことを思いながら何も考えずに第六西に向かってしまった。だから、あぁ、間違えた、と思った。アイツと総が――楽しそうに喋りながら、出てきたから。知らず息が止まって、第五校舎と第六校舎を繋ぐ渡り廊下の手前、第六校舎入口からは死角になる場所に思わず隠れてしまった。
「さ、帰りましょう、リーダー」
俺より、総とのほうが話が合うことくらい分かってる。頭の回転が良い総と話すときに楽しそうなことくらい分かってる。俺と総と、どっちに惹かれるかなんて分かりきってる。全部全部、分かってた。中学二年の体育祭でクラス対抗リレーのアンカーになって、同じくアンカーになってた二組の総が一位になったとか。中学初っ端の実力テストで、総が駿哉さえ押さえて学年一位をとったとか。二人で同じ道場にいたとき、いつも勝って負けてを繰り返していたのに、総が辞める日に一本取られて終わったとか。……アイツに敵わないことくらい、知ってる。
『しいて言うなら、下心、かな』