第二幕、御三家の嘲笑
君を救って、スーパーヒーロー
「やっと会えた」


 まるで毎日張り込みでもしていたかのように、彼は安堵の声を漏らした。実際、その足元に置いてあるペットボトル内の飲料が随分と減っているのを見れば、今日だけでも数時間は待っていたことが分かった。ついでにその見てくれは、以前会った時とは随分変わっていたが、当然ながら顔は変わっていなかったので誰なのかは分かったし、その変容は彼の感情を非常に分かりやすく体現していたので何も言わずにおいた。


「この間は、亜季を助けてくれてありがとう」

「それは俺ではなく遼か総に言うことだな。俺は何もしていない」


 尤も、総は目の前に姿を現すことさえ許さないだろうが、そんな意地の悪い助言をわざわざ付け加える必要はないと思ったので言わずにおいた。彼は首を横に振る。


「お前は亜季を庇ってくれた。お前がいないと……、多分、亜季のことはバレてた」

「……俺に何か用があるのか」


 そんなことをわざわざ俺に伝えに来る意味はない。何故突然そんなことを言い出したのか、問い質せば、彼は少し息を詰める。


「……お前だけは、亜季の秘密を知ってるんじゃないかと思って」


 そう思った理由は、俺の吐いた嘘にあるのだろう。それが嘘だと、彼女は説明されなければ分かる(よし)もなかったが、当事者の彼は分かって当然だった。だから疑問を抱いたのだろう、何故嘘を吐くのかと。そうすれば、その嘘が誰のためにあるのか、つまり俺が誰の何を知ってしまったのかは明白だ。正確には俺は彼女の総ては知らないので、それを彼女以外の第三者の口から聞かないように留意はしよう。


「……あんなことになって、迷惑掛けた俺が言える義理じゃない。でもごめん。俺は亜季が――俺を救ってくれた亜季だけが、本当に大事なんだ」


 だが、彼女の秘密を彼が口走る気配はなかった。代わりに、真夏の図書館の門前で、彼は頭を下げた。


「どうか、亜季を救ってほしい」


 その言葉の意味を、俺は知らない。

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