第二幕、御三家の嘲笑



「……俺にできることなのか、それは」

「……分からない」

「俺は彼女の友人だとはいえ、たかだか数カ月の付き合いだ。なんなら君の件があるまで彼女とはろくに口も利かない仲だった。それに比べて君は彼女の旧友なのだから――」


 人間が長く付き合えば付き合うほど仲良くなるものだとは欠片も思っていない。どんなに長く時間を共有しても、心を開かない相手などいくらでもいる。いて当たり前だ。親しくなるのに時間が必要なことはあるが、時間さえあれば親しくなるわけではない。だからその言い訳は持論に反しているようにも思えたが、少なくとも後半に関しては――彼等が互いを本当に大事な友人だと思っていることは――正しいはずだ。


「俺じゃ、駄目だったんだ」


 それだというのに、彼は彼女を救えないという。


「俺は……、俺は、亜季に救われたけど、俺は、亜季を救えなかった。俺は亜季を救えない」


 そもそも、何から救うというのだろう。知っている限りの彼女の情報を頭に巡らせる。想定されるのは彼女の家庭内における立ち位置の窮屈さ。ただ、その問題を考えるためには困ったことがある。彼女は彼と親しくしていた中学生当時、姓が違った。つまり家庭内の事情は現在と幾分異なるということだ。改悪されたか改善されたかはさておき、“救えなかった”“救えない”と過去形と現在形を併せて口にするということは、家庭内の事情は関係ないのではないかと考えさせられる。

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