第二幕、御三家の嘲笑
「え?」

「生徒の親の圧力で教師が変わるなんてそう珍しいことじゃあない」


 月影くんのコメントが理解できずに聞き返したけれど、なるほど、そういうことか。いかにもなスポーツマンとして (私の偏見もあるけれど)正義公平に溢れる宍戸先生なら、私が溺れさせられたのだと知れば犯人を捜したってことだ。松隆くん達に誘導尋問されるまで可能性にすら気が付かなかったし、結局は保身のために黙ることを決めてしまっていたけれど。


「大方俺達の予想で正しいんだろうけどね。宍戸の注意を逸らすために話しに行った檜山は確実に一枚噛んでる。檜山は三年の笛吹の事件にいた一人だろ? となると舞浜が主犯で大橋が共犯ってところかな」


 私の予想は概ね松隆くんのものと一致している。その三人なら結託してても何もおかしくないし、笛吹さん事件以来私のことをより一層気に食わないと思っていても不思議ではない。

 ただ、問題は、だからどうしよう、ということだと思う。御三家が私だけを贔屓するのが気に食わなくて、彼等が関知できない場所で恨みを晴らすというか、妬みを行動に変えたのだから。それは、御三家が私を守ってくれたことが裏目にでたことを意味する。


「桜坂はどうしてほしい?」

「へ?」


 その判断を、松隆くんはなぜかぶん投げてきた。そこはリーダー、いつもの腹黒さを発揮して頭脳明晰な解決策を導き出してほしいんだけどな。


「……ほとぼりはいつか冷めるんじゃないかな? そうすれば何もなくなると思うけど」

「ああ、そんな悠長に構える? 俺達が舞浜達を生徒会に売り渡すかどうかは桜坂の良心次第って話だったんだけど」

「え、ちょっと待ってどういうことそれ」


 かと思えば、まさかの腹黒い部分だけが現れた。平然と言い放ったその横顔におそるおそる挙手して訊ねれば、ぺらりと本の頁を捲った月影くんも頷く。


「懲罰が一番効くだろう? 痛い目を見せてしまえばいい。君が何度も死にかけるのは俺達にとっても手間だ」

「いま手間って言った?」

「プール事故は準備も処理も楽だからなあ。痛い目にあった桜坂が多少凹めばいいと思ってるんだろうね。ほら、いつも能天気にへらへらされてると苛立つだろ?」

「なんで悪口みたいに言うの? 誰の味方なの?」

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