第二幕、御三家の嘲笑
「だから手っ取り早く生徒会に売ろうと思ったんだよね。生徒会の連中も桜坂って虐めの対象を失って鬱憤が溜まってるだろうし、下手に一般生徒に手を出して俺達にシメ上げられたら困ると思ってたんだろうし。コイツらはテイクフリーだよと言ってしまえば他の連中も桜坂に手は出さなくなるだろ」


 テイクフリー……。舞浜さん達を物のように扱った挙句、生徒会に〝好きにしていい筆頭〟として売り渡す……。挙句いい見せしめになるだなんて、腹黒いなんて冗談半分の評価じゃ収まらない報いだ。


「でもほら……いくらなんでも差し出すのは……」

「お人好しだなあ、桜坂は」


 ふん、と松隆くんが鼻で笑ったとき、扉がノックされて弓親さんが入ってきた。そのお盆の上にはアイスティーが乗っている。目の前に差し出されたときに軽く会釈をすれば、弓親さんはちょっとだけ微笑んで出て行った。


「本当に苦手なのか」

「え?」


 言いながら、パタン、と月影くんは本を閉じた。眼鏡の奥に覗く瞳は、月影くんにしては珍しく私に興味を示している。


「さっき遼が言っただろう、君は弓親さんを苦手にしているようだと。確かにそう見える」

「……そんなことないよ。別に苦手じゃないし」

「まあ、たどたどしいよね。弓親さんを前にした桜坂は」


 ――何でもかんでもお見通しのリーダーは、選ぶ言葉も正確だ。そうだ、私は弓親さんが苦手なんじゃなくて、どう接すればいいのか分からないんだ。あんな人、周りにはいなかったから。

 でもそんなことをこんなところで言って何になるんだろう。


「……そんなこと、ないよ」

「下手な嘘はやめてね。いちいち暴くの面倒だし」

「なんでそんな酷い言い方するの!? 松隆くんは丁寧に毒を吐くのがアイデンティティみたいなとこあるんだからそんな言い方しちゃ駄目だよ!」

「ま、そういう話は追々聞くとして」


 ん? また改めて追及するほどのことだろうか? 松隆くんの話の切り上げ方に首を捻っていると、ひんやりと冷たい瞳がこちらを向く。


「桜坂は、どうしたい? これから危害を加えられないために」

「正直死ななきゃいいみたいなとこあるよね!」

「君が人間の死を肉体でしか考えないほど愚かだとは思っていないが?」


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