第二幕、御三家の嘲笑
 月影くんの言葉は、松隆くんの瞳よりも更に低い温度で私の胸を突き刺した。思わず息を詰めてしまえば、正面に座っていた桐椰くんが気付いて一瞬だけこちらを見た。逆に、私はそんな桐椰くんに気付かないふりをして月影くんに顔を向けたままでいる。


「だよねー、確かに私すっごい繊細だもんねー」

「他人の目も気にせずに拘らない通り越していい加減な制服の着方をする君が図太くなくて何なんだ」

「だからそこまで酷いこと言わなくていいじゃん!」

「話の腰を折るのはやめろよ……。じゃあ桜坂、選択肢をあげる」


 面倒な話題から逃げようとする私にしびれを切らした松隆くんの綺麗な指が提示される。一つ、とその人差し指がゆっくり起き上がった。


「これまで通り、俺達は桜坂だけを見てやる。目の届く範囲では何もさせない」

「ふむふむ」

「その二。桜坂に手を出した女子を嵌めて生徒会の標的にする」

「怖い……」

「その三。桜坂に手を出さない限りで他の女子にも平等に接する」

「具体的にどうするの?」

「要は桜坂が俺達の特別だと思われなければいい話だから。俺達には女子に優しくするという手間がかかる」


 三本立てた手を軽く横に振りながら、松隆くんは心底鬱陶しそうに述べた。女嫌いの月影くんは苦虫を噛み潰す。


「三つ目は限りなく面倒くさい。却下だ。さっきも話したが――」

「確かに面倒だね。桜坂に手を出した女子がどんな報いを受けるのか見せてやるほうが楽そうだ」


 自分の手間と相手の尊厳を躊躇なく同じ天秤に乗せる、その言動。ただ楽しむように笑みを穿いた松隆くんのその横顔に、一瞬だけ背筋は震えた。その言動が怖かったからじゃない、その言動が本当か嘘か分からない松隆くんが怖かったから。


「……でも、ほら、一応御三家は正義の味方なわけですし……」

「馬鹿だなあ、桜坂。俺達は生徒会の敵だっただけで、建前はともかく、そんなものになった覚えは毛頭ない」


 私の浅はかなな発言のせいで、その笑みは冷笑的(シニカル)に変わる。


「正義を名乗ると、厄介事を頼まれちゃうのが常だろう? だから、呼ばれることはあっても名乗ることはしないんだよ。欲も必要もないことはしたくない主義でね」


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