第二幕、御三家の嘲笑
 透冶くんの仕掛けのせいで御三家を名乗っているだけの松隆くん達の底が、私には未だ知れない。腹黒い松隆くんの見せるこんな一面が本当なのかどうか、私には未だ図れない。松隆くんは、誰かを助けるときに考えるより先に体が動くという意味での善人ではないというのだろうか。


「……松隆くん達が面倒だって言うなら、私が口出しできることはないです」

「あとは風評被害との兼ね合いかな? 正義の味方が雑用に忙しいっていうなら、悪の大魔王は尾ひれのついた(そし)りを躱すのに忙しいんだ」


 噂はいつだって事実を捻じ曲げる勢いで広がる、そういうことだ。


「……じゃあ、やっぱり他の女の子にも平等にしてあげたら?」

「よく考えれば俺は君に親切にした覚えはないから他の女子にも何もせずに済むな」

「じゃあ月影くんは私に親切にするところから始めようか!」

「まあ、カツアゲされてたら助けるくらいはしてやるよ。それで桜坂への嫌がらせが終わるとは思えないんだけど」


 はあ、と疲れた肩をほぐすように片手を肩に当て、松隆くんは溜息を吐いた。


「だってほら、女子って生き物は、要は自分より劣る同性が異性にちやほやされるのが気に食わないんだろ?」

「なんで劣るって決めつけるの? さっきから何度も言うけど酷くない?」

「ところで、さっきから黙ってる遼は何か言うことある?」


 不機嫌だから今まで放置されていたのだろう桐椰くんに、漸く声が掛けられた。手持無沙汰に飲んでいたらしいオレンジジュースはとっくに空になっているのに、拗ねたような仏頂面は健在だ。


「……別に。プールさえ終われば大体目は届くし、宍戸も同じミスはしねーだろうし。俺はお前が決めたことに倣うだけだ」

「そう? じゃあ俺は他の女子に優しくしつつ、今まで通り桜坂にも構うとするよ」

「まるでペットみたいな言い方するのやめてくれません?」

「取り敢えず俺はそれでいい」


 さっきから私の言葉が散々無視されているので、それこそ拗ねたふりをして、グラスも持たずにストローを咥えていたのだけれど、桐椰くんが立ち上がって「帰るぞ」と言わんばかりの顔で見下ろしてくる。


「……帰るの?」

「居座る気かよてめーは」

「だってまだ三時半だもん。どうせなら学校に戻ろっかなあ」


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