第二幕、御三家の嘲笑
 訊ねながら、松隆くんの腕は、一番近くで頭を下げていた牟田先輩の傘を払い飛ばした。桐椰くんに (鹿島くん曰く)半殺しにされた牟田先輩は、崩れ落ちるように泥まみれの地面に土下座した。まだ完治しない右腕を庇いながら、額を地に擦りつけて。

『……悪かった』

 項垂れた数人が、牟田先輩と同じように、のろのろと地面に膝をついた。雨の音にかき消されてしまうような小さな呟きがたくさん聞こえた。松隆くん達が表情を変えることはなく、返事をすることもやっぱりなく。

『……俺はもういい』

 ややあって、桐椰くんはそう言って踵を返した。頭を下げる以上のことはしない数人を一瞥して、仕方なさそうに目を逸らして。

『……迎合したところで、誠意がないなら同じことだ』

 月影くんは、牟田先輩に釣られて土下座しただけのような数人に、一言そう吐き捨てて、桐椰くんの後に続いた。松隆くんだけが最後まで残って、じっと牟田先輩を見下ろしていた。

『……どうして、透冶にあんなことをさせたんだ。真面目な透冶が狼狽えるのが、楽しかったか?』

『…………』

『金が欲しかったわけでもないのに、何故だ?』

『……だから……、あれは……』

『遊びだった、って言ったな。そのくだらない遊びに透冶を付き合わせた理由は何だった?』

『…………』

『どうせ、透冶を付き合わせることまで含めて遊びだったって言うんだろ』

 何も答えない牟田先輩に、松隆くんが手を挙げることはなかった。降り続く雨に濡れて沈んでいく牟田先輩達の手を見た瞳は、その手を踏みつけたいのを堪えているようで。

『……誠実なヤツほど謝るのが下手で、不誠実なヤツほど謝るのが上手だなんて、この世の中はクソみたいに理不尽だな』

 小さな声でそう呟き、何も答えることのない牟田先輩達を置き去りに、松隆くんも踵を返した。数歩進んでから気付いたように振り返り、傍観者さながら立ち尽くしていた私を見て、自嘲気味に笑った。

『何してんの、そんなところで』

『……えっと、』

『四月の遼みたいにコイツらを半殺しにすると思った? そんなことしないよ。……そんなことしても、もう透冶は怒ってくれないんだから』

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