第二幕、御三家の嘲笑


 が、予想外の言葉に耳を疑い、お陰で自分が顔をしかめていたことなんて忘れた。総はいつも通りの食えない表情だ。冗談なのか本気なのか分かりやしない。内容が内容だから冗談に決まってるけれど、あんまりな冗談には流石の駿哉も本を閉じて顔を上げた。


「どうした、悪いものでも食べたか」

「そうだよ。お前何言ってんだ?」

「お前達こそ何言ってんの。あれは凄いと素直に思うだろ?」

「あの十人並み以下の顔が化粧と服装で蝶乃を凌げるってことが?」

「よりによって元カノと比べるなよ」

「いい比較対象がなかったんだよ!」


 どいつもこいつもいつまでもその話引き摺りやがって。苦虫を噛み潰せば「まあ蝶乃の話は置いといて」と自分から食いついた話題を邪魔もの扱いする。


「想定通りと言えば想定通りだったけど。あれは凄いね。吉野に頼んで正解だった」

「吉野の手にかかれば元の顔なんて分からんねーじゃねぇか、詐欺だろあんなの」

「確かにあの豹変ぶりには驚いたな。今日も今日とて化粧をしなければ見る影もないが」


 駿哉は頬杖をつきながら頷いた。全く持ってその通りだ。大体、確かにBCCのときに見栄え良くはなったけれど、別に目を引くほど綺麗になったわけじゃなかった。

 それなのに、総は楽しそうにグラスのストローを掻き混ぜる。


「分かってないなあ」

「ああ?」

「桜坂の顔は化粧映えしないよ。確かに化粧で変わりはするけど、せいぜい華やかさだ。別人のように激変はしてない」

「元から多少可愛いって? お前はあの性格を隣で見てねぇから言えるんだよ」


 アホらしい。思わず溜息を吐いた。眼鏡をかけた顔は並みの下、眼鏡を外した顔だって、髪型と服装をいじれば変わるっていってもせいぜい並みの上だ。好みによっては上の下といっても差し支えない程度。それなのに煽りと皮肉と嫌味が得意技ときた。最悪だ。会話をすればするほどフラストレーションが溜まって仕方ない。


「だからお前がやればよかったんだよ、あんなくだらねぇごっこ遊び……」

「お前が蝶乃の隣は嫌だって言ったんだろ」

「お前が言ってんの目くそ鼻くそのレベルだぞ、分かってんのか」

「そんなに嫌か? 桜坂の彼氏役ってのも中々おいしいと思ったけど」

「お前物好きだなおい」


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