第二幕、御三家の嘲笑
 総の女の趣味は把握してる。減点方式だ。頭の悪い女が嫌い。自己顕示欲の高い女が嫌い。自意識過剰な女が嫌い。理路整然としない女が嫌い。特別でないものをひけらかして特別ぶってる女が嫌い。美人は嫌いじゃないがそれを鼻にかける女が嫌い。自己評価が事実と乖離した女が嫌い。類型を挙げれば確かそんなもので、類型に当てはまる女は恋愛対象外。曰く、そんな女と付き合ったところで充足感もくそもない、らしい。そう考えると、確かにアイツはそう減点されない。わざとらしい自意識過剰な発言は全て演技で、演技を貫くために打てば響くような皮肉と嫌味を吐き出す頭の良さがある。自己顕示欲がないとか容姿を鼻にかけないのは見ればわかる。特別ぶるというより一生懸命凡庸に埋もれるような風体を心掛けているのは、謎ではあるが事実だ。

 ふむ、と総はわざとらしく顎に手を当てる。


「物好きか? 結構いいと思うけどなあ」

「好きにすればいいけど、見合いはどーしたんだよ、見合いは」

「それを断るいい理由も探してる。花高の友達なら家がちゃんとしてるから許すって言われてるし」


 はあー、という重い溜息と共に総はソファに沈み込んだ。ああ、これは愚痴が始まる合図だ。駿哉と顔を見合わせれば、総は肘をついて舌打ちすることから始める。


「マジのお嬢って性格良いんだよな」

「……まあ金あるから余裕あんだろ」

「かもしれないな。だからって嫌味通じない、皮肉通じないってのは寛容なのか馬鹿なのかどっちだ? どう考えても大らかさ通り越して愚鈍だぞあれは。頭の悪いヤツと話して何が楽しいんだよ。本当やめてくんねぇかな」

「お前は見合い相手の何を試してんだよ」

「知力」

「なんだそりゃ。猿相手にしてんじゃねーんだから」

「猿のほうがまだ可愛げがある。教えれば芸を覚えるんだから」

「松隆くんのファンが聞いたら泣くぞ」

「確かにお前は得だよなあ。腹がどす黒いのに見た目だけ無駄に爽やか」

「そのつもりはないのに騙されるヤツが馬鹿なんだよ」


 満面の笑みでそんなことを言ってるからお前は性格が悪いんだ……。隣の駿哉も絶対同じことを考えているに違いない。


「その点桜坂はいいよ? 俺の嫌味と皮肉にはそこそこ正常に反応してくれるし」

「アイツも嫌味と皮肉はお手の物だからな」

< 52 / 438 >

この作品をシェア

pagetop