第二幕、御三家の嘲笑
「頭が悪くない証拠だろ。あそこまでだと頭が良いんじゃないかとも思うけどね」


 アイツが俺達と関わり始めて、僅か二ヶ月弱。指折り数えてみると、ぞっとするほど短い付き合い。

 そう、背筋がぞっとする。この間、アイツの元カレとかいう菊池雅がやって来た日にその事実に気付いた。とてもじゃないが二ヶ月の付き合いなんて気がしない。連日一緒にいたせいか、俺達の傍らにいることが当たり前になっている。煽りを多分に含んだ台詞の遣り取りは、旧知の仲を思わせる。それなのに、俺達はアイツのことを何も知らない。高祢中学出身、高祢高校進学、今年の四月から花高に転入。両親と兄と妹がいる。客観的な情報は、それだけだ。

 だらしがない制服を着ているのは体型を誤魔化すため。癖毛でまとまらない髪を結ぶことすらせず眼鏡をかけているのは……、何故だ? そう考えている内に、気が付く。そもそも転校してきた原因は何だったんだ? 虐めか? でも生徒会の嫌がらせを淡々と受け続けるようなヤツが虐めを原因に転校するか? 透冶の事件を探るのと引き換えに欲しがったのが平穏な学校生活だなんて、生徒会の嫌がらせを鬱陶しい程度にしか思ってなさそうな様子を考えると妙じゃないか? そして、本当に幕張匠とは何もなかったのか? 三年の笛吹に使われていた阿部が、文化祭のときに喚いた。アイツは幕張匠の彼女だという噂が中学のときにあったのだと。アイツはその噂を――これだけは本当だと言って――否定した。これだけは、ってことは、今までアイツがした話のどれが本当でどれが嘘だったんだ? もしも今でも本当と嘘を織り交ぜて俺達と話しているというのなら、アイツの何が本物なんだ? 彼女ではなかったけれど何かを知っているということか? 元カレの菊池雅は知ってるのか? 付き合ったことがある相手は一人で今でも好きな人がいるなら、菊池雅を未だ好きなのか? それとも付き合ったことがある相手は菊池雅でも破局して別の好きな人がいる? でもこの間校門前で見たアイツと菊池雅は、過去に破局したなんて関係には見えなかった。寧ろ、何年も連絡すら取っていなかったのに、昨日会ったばかりかのような親密な空気感があった。じゃあ付き合ったことがある相手の数が嘘か? 好きな人がいるのが嘘か?

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