第二幕、御三家の嘲笑
 分からない。どの疑問も、今湧いたものじゃない、会話を重ねる度に生じたものだ。その答えは、問いただしていないか、問いただしても教えられなかったか、教えられたようでただのトートロジーを説明されたに過ぎなかったかの、どれかだ。

 そして何より、頭から離れないのは、以前アイツを家まで送ったときに玄関から出て来たアイツの母親とアイツの遣り取り――……。


「遼?」


 はっと、我に返る。総は訝し気な顔をしていた。


「どう思う、って聞いたんだけど」

「あー……悪い、何の話だっけ……」


 総の見合い相手の愚痴を聞いて、アイツが存外頭は悪くないんじゃないかって話をして……。


「だから、今回桜坂が溺れたのはどう考えても舞浜達の仕業だなって結論が出ただろ。そういうのを失くすためにどうするかって話だよ」

「あ? あー……、」


 そんな話をしてたのか。暫く考え込んでしまっていたことに気付き、誤魔化すように腕を組む。とはいえ、頭から離れない疑問のせいで思考が纏まらない。


「まあ……、いい案があるなら俺は別に」

「お前までそんなことを言うのか?」


 そのせいで、駿哉が異を唱えていた可能性なんて欠片も思い浮かばなかった。駿哉は面倒そうに眉間に皺を寄せている。


「彼女がプールで溺れるところまでは俺達の関知するところじゃないだろう。完璧に彼女の学校生活を保障してやる必要なんてない。目の届く範囲ですれば済む話だ」

「だから、それだと桜坂が危ないんじゃないって言ってるじゃないか」

「だから、俺はそこまでする必要があるのかと聞いているんだ」


 はあ、と駿哉が溜息と共に眼鏡のブリッジを押し上げる。


「確かに彼女は透冶のことに協力してくれた。遺書を見つけてくれたことは――正直、偶然とはいえ、感謝し尽くせない。事実を聞かされたところで、透冶の言葉がなければ、俺達は結局あの時から変われないままだった……」

「それなら、」

「とはいえ、どこで損得が逆転するかはかなり微妙なところだ」


 損得――御三家がアイツを守ってやる手間と、アイツが御三家にもたらした恩恵。


「本人が遠慮したように、文化祭最終日で俺達との関係は経っても問題なかったんじゃないか? カエサルに学んで三度辞退しようとしたわけでもないだろう、彼女は何も考えずに断ったはずだ」

< 54 / 438 >

この作品をシェア

pagetop