第二幕、御三家の嘲笑
「……お前に関係ある?」
「全然」
「……お前な、」
「関係はないけど、いいじゃん。なんとなく知りたいだけじゃ駄目なの?」
む、と桐椰くんの口がへの字になるのが横から見ても分かる。本当、分かりやすいなあ。
「……別に、普通だよ。晩飯作ったり、部屋掃除したり、遥の弁当作ったり」
「はーい、すいません桐椰くん、それは完全に主婦でーす。男子高校生の普通じゃありませーん」
「仕方ねーだろ、母親忙しいんだから。これから仕事行く、今仕事から帰った、ってとこで家事させるわけにはいかねーだろ」
さも当然のように言うけれど、そんなことを思う桐椰くんは普通よりずっと優しいことに気付いてるのかな。しげしげと、桐椰くんを見つめてしまう。彼方が他人に惜しみなく愛情染みたものを注ぐように、桐椰くんもそうなのかもしれない。優しい家庭だ。普通じゃなくて、どう聞いても理想染みている、と思う。
「家事以外は?」
「遥がゲームすんの見てるか……兄貴の本借りてるかだな」
私に対する警戒心を解いたかのように、自分の日頃の生活を思い出そうとする桐椰くんの横顔は普通だった。
「桐椰くんの趣味ないの?」
「あー、料理じゃね? 母の日とか、遥の誕生日とか、手込んだの作るし」
なるほど。どうりでBCCで作った料理が家庭科部顔負けだったわけだ。私は味見くらいしかさせてもらえなかった料理対決にて、桐椰くんの手際の良さに目を向いたのは私だけじゃなかったはずだ。審査員役の文化祭実行委員会の方々も、まさか金髪不良くんの手がカルパッチョ風冷製パスタを作るなんて想像もしなかっただろう。
「いーなー! 私も食べたいなー! 私の誕生日は遼くんの手作りケーキがいいなー!」
「知るかよ」
「えー! なんでー、一体何のために私の誕生日覚えたの?」
「BCCのためだよ」
舌打ちした桐椰くんは鞄を持って立ち上がった。私を待つ気配もないその動きに慌てて立ち上がる。
「帰るの? 私も帰る!」
「総に送ってもらえよ。遥の試験まだ終わってねーから」
「……桐椰くん、最近私に冷たくない?」
むぅ、と頬を膨らませるけれど、桐椰くんは無視だ。それどころか「じゃーな」なんて言って本当に帰った。冷たい男だ。