第二幕、御三家の嘲笑
 でも、檜山さんは今更どうしようもないのだ。期末試験が終わって、開放感に溢れて遊びに行こうとしていた空気はぶち壊された。もう戻らない空気を、それでもみんなを逃がすために変えられるのは檜山さんだけだ。それなのに、その方法は、舞浜さん達の名前を出す以外ない。みんなの前で、友達を裏切ったなんて烙印を押されてしまうのだ。

 ああ、本当に、松隆くんのやることは、容赦がない。

 ややあって、檜山さんの唇は小さく動く。


「……舞浜」


 覚悟していただろう舞浜さんが、それでも震える。


「大橋、高梁(たかはし)……、間宮(まみや)

「はい、どーも」


 五組の女子も合わせて四人。私の中で、今後二人で会ってはいけない人リストが更新された。


「で、一番最初に出て来た舞浜」


 欠片も有り難いとは思っていない松隆くんの声は標的を変える。ずっと黙っていた舞浜さんは目も合わせない。


「同じことを二度も言わせるな。桜坂を(おとし)めるってことは、俺達を敵に回すってことでいいんだな?」

「そんなつもりは……、」

「仏の顔も三度。生憎、俺は寛容なほうじゃなくてね」


 そこで松隆くんの目が私に向けられた。それを負ったクラスメイトの目も私に向き、すっかり傍観者を決め込んでいた私は(おのの)く。


「取り敢えず、桜坂に謝罪してくれる? 大橋も檜山も」


 ぎゅ、と舞浜さんが唇を引き結んだ。檜山さんと大橋さんは顔を見合わせている。特に大橋さんなんて、舞浜さんしか糾弾されないと油断していたのか、どうすればいいか分からない様子だった。逡巡(しゅんじゅん)する三人に、一体何を躊躇(ためら)うことがあるんだとばかりの溜息が追い討ちをかける。


「早くしろって言ってるだろ。俺も暇じゃない。桜坂も、お前らのくだらない(ねた)みに付き合う義理はない」


 のろのろと、三人が私に向き直る。二、三メートル先からぼそぼそと「ごめんなさい」と聞こえた。普段声の大きい人達は、こんな時だけ声が小さい。それを仕方がないものと思っているのか、はたまたクラスの中でこの三人を孤立させることで目的を達成したのか、松隆くんは何事もなかったかのように踵を返す。


「じゃ、桜坂帰ろうか」

「……はい、リーダー……」


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