第二幕、御三家の嘲笑
「御三家で性格が良いの、桐椰くんだけじゃん。本当、桐椰くんの純粋さを見習ってほしいなー」

「悪く言えば愚直の域だ。いつか損をする」


 そこで唐突に背後から月影くんの声が出現した。振り向いたところにいる本人の眉間の皺は、いつもより幾分深い。


「や、駿哉。一緒に帰る?」

「何を朗らかな挨拶をしてるんだ。面倒な騒ぎを起こして」


 一緒に帰るか返事はないけれど、月影くんは松隆くんの隣に並んで歩き出す。


「見てたんだ?」

「お前に用事があった。七組におらず、桜坂のところだろうと思って来てみればあれだ」

「用事?」

「父が忘れ物をしたらしい。取りに行くように言われている」

「これから桜坂送るけど」

「……やむをえないな」

「そんなに嫌そうに言わないでよ!」

「嫌そうじゃない、嫌なんだ。遼はどうした」

「相変わらずだよ」

「……馬鹿馬鹿しい」


 くい、と月影くんは眼鏡のブリッジを押し上げる。


「どうだった、試験の出来は」

「いつも通りだ。国語以外は概ね満点で間違いはない」

「わー、さすが花高始まって以来の秀才だね」

「煽るくらいなら黙れ」


 絶対零度の視線が向けられた。黙ろう。


「話は変わるが、総。鹿島生徒会長が何やら目論んでいる」

「ん?」


 その名前に、ぴくりと反応してしまった。鹿島くん。何故か、私が幕張匠だと知っている、そして一般生徒の敵ではない生徒会長。未だ彼は謎のヴェールに包まれている。


「さすがに生徒会として示しがつかないという声が多いらしい。なぜ俺に伝えてきたのかは分からないが、クラスマッチはよろしくと言っていた」


 来週ある球技大会のことだ。クラス対抗だから、三組の鹿島くんと御三家の三人はそれぞれ戦う可能性がある。でもだから何なんだろう。


「何でも、生徒会VS御三家と銘打たれることが半ば決まっているのだと。個人競技はともかく、チーム対抗の場合は生徒会役員で固めたチームと、御三家その他一般生徒のメンバーで出ることになるようだ」

「……新撰組と奇兵隊みたいだな。御三家一人一人は高杉晋作の気持ちってわけだ……」


 面倒そうに松隆くんは例え話をする。確かに、生徒会は正式な学校の組織だし、御三家は生徒会至上主義の花高のレジスタンスだと雅も話していた。


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