第二幕、御三家の嘲笑
「だからそのニックネームをやめろ」

「ほら、桐椰くんと月影くんって仲良くなりそうにないじゃん」


 月影くんも松隆くんも押し黙った。やっぱり。月影くんはきっと小学生の頃から教室の真ん中にも隅にも(かかわ)らず読書に勤しんでいたと思う。桐椰くんは休み時間になった途端に教室を飛び出すタイプだと思う。松隆くんはのらりくらりと気の合う仲間と過ごしていそうだ。となると、松隆くんと桐椰くんはまだしも、桐椰くんと月影くんの接点なんて、同じクラスにいても思いつかないのだ。

 ああでも、桐椰くんって案外読書家だっけ……。夏目漱石が好きといわれると、なんともベタな文学作家を連れて来たなあと思う反面、本当に好きだというのなら純粋に文学が好きなんだなあと思う。


「ね、図星? どうして仲良くなったの?」

「ああ、それがねぇ、」

「余計なことは話さないでいい」


 松隆くんが少し頬を緩めながら話してくれようとしたのに、月影くんが早口で遮った。今度月影くんがいないときに聞くしかない。


「そういえば、桜坂は?」

「ん?」

「幼馴染とか、いるの?」

「いなーいよ」


 いない。これは本当だ。幼馴染をどう定義しようと、私にそんなものはいない。幼い頃から互いの家に出入りしてきたとか、幼い頃からなんとなく一緒にいることが多いとか、幼い頃からずっと同じ学校に進学してきたことをお互い認識してるとか、どんなにハードルを下げても私にそんな人はいない。


「じゃあ、菊池雅は桜坂の何なの?」


 思わず、言葉に詰まった。動揺してしまったけれど、足を止めずに済んだ自分を褒めてあげたい。

 雅は、幼馴染なんかじゃない。私は雅の、雅は私の、せいぜい二年と少ししか知らない。


「なんでそんなこと聞くの? 松隆くんまで嫉妬してるの? やだなー、私モテモテじゃん」

「そうやっておどけてみせるのはいいけど、俺が本当に嫉妬だって言ったらどうするつもりなの?」


 ――今、何かを口に含んでいたら、思い切り吹き出してしまっていただろう。そうでなくても酷く噎せ返っていたはずだ。視界の隅に捉え続けていた松隆くんの表情はいつも通り本心なんて読めなくて、冗談とも本気ともとれる。

 ごくんと生唾を呑み込み、「やだなあ、」といつもの声を出す。


「そんなこというなんてらしくないよ、リーダー」

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