第二幕、御三家の嘲笑
「全くだ。言うなら相手を選べ、弁えて然るべき顔面偏差値しかない女に行っても冗談だと分かり切っているから楽しめないぞ」

「ねぇ月影くんはいつまで数学を根に持つの?」

「はは、まあ、冗談なんだけど」


 少しだけ、驚いた。松隆くんの声はいつも通り軽やかで、本当に冗談だと、思うけれど。


「でも、菊池雅との関係が気になったのは本当」

「うーん、関係と言われましてもねぇ」

「あの日は深く考えなかったけど、彼は本当に桜坂の元カレ?」


 松隆くんがその場で深く考えなかったなんて、意外だ。確かにあの日の松隆くんは、雅の言葉を鵜呑みにして、雅が私の元カレだと断定した上で言葉を投げかけて来たけれど。


「なんでそう思うの?」

「さあ、勘かな?」

「今日の松隆くんは松隆くんらしくないなー。私と雅の関係なんて、本当は興味ないでしょ」

「言ってるじゃん、それには興味があるよ」

「だからどうして?」

「意外だと思ったからだよ」


 動揺を通り越して、きょとんとした顔で返事をしてしまう。意外?

「何が?」

「ああいう男と付き合ってたことが」

「ああいう……とは……」

「遼が蝶乃と付き合ってたなんて想像できないだろ? それと似たようなものさ」


 確かに言われるまで知らなかったし、二人の間にそんな雰囲気は微塵もなかった……。ただ、私と雅との組み合わせはそんなに異色だろうか。曲がりなりにも相棒と呼ばれてたほど一緒にいたのに。……あ、でも、そう認識されてたのは幕張匠と雅か……。


「松隆くんは私とどんな人間が似合うと思ってるの?」

「……さあ。どうだろうね」


 そう答えた松隆くんの横顔は、誤魔化したというよりもただ単に言いたくないと感じたようだた。まるではっきりと言葉にするのを避けるように。

 避けたのは、私のためか――それとも。


「……総、今日のお前、らしくないぞ」

「はは、そうかな」


 分からないけれど、少なくとも、月影くんが渋い顔で指摘したように、今日の松隆くんはいつもとちょっと違う。

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