第二幕、御三家の嘲笑
 ただ、そう感じたのが嘘だったかのように、それから家に着くまで、松隆くんはいつも通りだった。月影くんと他愛ない会話を繰り返して、偶に私に他愛ない話題を振って。私の情報を聞き出すのはやめたのか、水面をなぞるような話ばかり。桐椰くんといい、松隆くんといい、一体何が起こったのだろう。

 首を捻りながらも三人で家が見えるところまで来れば、丁度門前にいた人影が不意に此方を向いた。ツインテールを揺らしながら「あ!」と声を上げる。


「おねーちゃん! お帰り!」

「ただいま」


 帰宅時間が重なることなんて、そうないけれど、今日は重なる日だったようだ。松隆くんと月影くんが私と優実(ゆみ)を見比べるのが気配で分かる。一方で、帰宅しようとしてきた優実は興奮した様子で駆け寄って来る。


「お姉ちゃんの友達? すっごいイケメンじゃん!」


 身長も相俟って、その動作は小動物染みていた。輝く瞳で松隆くんと月影くんを見上げるその様子を見て、そういえばこの人達は顔だけは無駄にいいんだ……と思い出す。


「こんにちは。桜坂の妹?」

「はい! 優実です!」

「ご丁寧に。桜坂の友達の松隆です。こっちは月影」


 ああ、間違えた。松隆くんは外面もいいんだった。月影くんが挨拶する気のないのを見越してわざわざ紹介してあげるところまで含めて、相変わらず完璧だ。

 ただ、そんなことはどうでもよくて。


「おねーちゃんがいつもお世話になってます」

「全くだ」

「こら駿哉。いえいえ、こちらこそ。妹さんは澄高(すみこう)なんだね……」


 松隆くんの視線が優実の制服を観察して高校をはじき出す。私立澄江(すみえ)女子高校――花咲高校の生徒の大半が成金家庭である反面、澄高はそこそこ堅実に勉強させるそこそこの家庭が多い。

 ぐ、と、目を瞑る。あまりこの二人と優実を話させたくない。


「……じゃ、送ってくれてありがとう。優実、行こう」

「えー、折角だから上がってもらったりしないの? 今日は――」

「いいから、優実」


 松隆くんと月影くんから引き剥がすように促せば、優実は口を尖らせながらも頷き、「しつれいしまーす」と軽く会釈してくれる。松隆くんは相変わらず余所行きの笑顔を貼り付けてくれたし、月影くんも目だけで会釈して返してくれた。

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