第二幕、御三家の嘲笑
 顔を真っ赤に、という部分を強調すると桐椰くんの口の端がぴくぴくと痙攣した。これは殴りたいのを我慢してる顔だ。その手にある雑誌がグシャッと握りしめられている。月影くんが「すぐに言い負かされて情けない」と冷ややかな目を向ける隣で、松隆くんは私に冷たい目を向けた。


「話は戻るけど、桜坂、もうそのむざ……手抜きした状態でいる必要はないよ?」

「いま無惨って言おうとしたよね?」

「あの恰好を強制してたのはBCCで観客に驚きを与えるためだったし。もちろん、そのままでいたい理由があるなら別だけど」


 華麗なるスルーを決め込んだ松隆くんの目はどう考えても馬鹿にしたように笑っている。原因はぼさぼさに伸びっぱなしの髪とすっぴん眼鏡にあるんだろう。制服はよしりんさんに破られてしまったので、文化祭前と違ってちゃんと体に合ったサイズだ。スタイル良かったんだね、と何人かの女の子に言われた。


「うーん、理由っていうか、ほら、面倒くさいし……」

「髪結ぶくらいしろよ、二秒で済むことだろ」

「でもなあ。暑くなってきたら結ぶかもしれないけど」


 梅雨入りした今、じめじめと雨が降り続くとはいえ、まだ耐えられない暑さはない。とはいえ、湿気のせいでやや爆発している髪は見るに堪えないと感じているのは私自身も同じだ。どんだけものぐさなんだよ、と桐椰くんの白い目が向けられている。


「じゃあ……軽くまとめるくらいはします……」

「そうしたほうがいい。貧相な顔が更に貧相に見える」

「ねぇツッキーは私に何の恨みがあるの? 数学?」

「じゃあまたな」


 図星をつかれた月影くんは氷のような睥睨を残して先に行ってしまった。一人歩き出した月影くんを女子の一部が追いかけているけれど、やはり無視。


「ねー、桐椰くん達もあんな風に女の子に追いかけられてるの?」

「ああ、そうだね。生徒会に勝ったせいであからさまになったよ。あとは遼が甘いもの好きってバレたからお菓子の貢物は増えたなあ」

「コイツ本当に余計なことばっかり言いやがったよな」

「だって他に桐椰くんの良いところ見つからなかったんだもん」

「甘いもの好きって別に良し悪しじゃないんじゃない?」


 そうは言われましても、女子の好感度を上げるという意味では同じことなのですよ。


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