第二幕、御三家の嘲笑
 クラス対抗球技大会の練習をしなきゃいけなかったけど、今日テニスコートを使えるのは一年生の五組から七組と、三年生だった。二年生の私達は、各自御用達のテニスコートに行くも休日にするも自由で、後者を選んだ私は、帰宅には早い時間を此処で潰そうとしたんだ。そしたら、エアコンが効いてて気持ちが良かったし、誰もいないし、つい寝転んで……。机の上に無造作に置いたままにしたいたスマホを見ると、時刻は一七時半……。

 大きめのソファとはいえ、眠るには窮屈だったせいで、横たえられていた体が軋んでいる。頭は(もや)がかかったようにぼんやりしていた。目蓋は少し重たくて、中途半端に寝たせいでまだ寝足りないと主張している。冷房がしっかり効いた室内だから七月のお昼寝だというのに汗一つかいてなくて、なんならお腹の上に物凄く見覚えのあるパーカーが乗っていた。

 ソファの背の向こうから私を見ていた桐椰くんを見上げる。何と声を掛けるべきか惑っているらしい、難しい表情をしていた。あぁ、そっか、寝ながら泣いてたからか、と涙を拭う。沢山泣いてたのか、頬がかぴかぴと乾いていた。


「……パーカーありがとう」

「……風邪引くぞ」

「んー、桐椰くんがこれくれたから平気」


 声が掠れている。空咳ついでに、ごしごしと目を擦る。視線を移した先には――眼鏡をかけていないせいで物の輪郭くらいしか見えないけれど――笹なんてなかった。

 夢を、見ていた。夢の中では、此処に笹が飾ってあった。御三家の三人が七夕に願い事なんて可愛らしいことをするはずないと思ったことは覚えている。だからやっぱり夢だったんだ。なんなら七夕は五日も前に終わっている。

 あとは、何があったっけ……。


「……何か飲むか?」

「……ねぇ桐椰くん」


 おずおずと訊ねてくる桐椰くんは、夢の中では妙に穏やかだった。違う、穏やかだから夢だったんだ。最近の桐椰くんは何かと私に冷たいくせに優しいなんて妙だ、とも思わなかったのも、夢だったからだ。今の桐椰くんは、私の涙を見たせいで無下にできないだけだ。こう考えると私って悪女みたいだ。


「桐椰くんは、七夕に何か願い事した?」

「……はぁ? なんだよ急に」


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