第二幕、御三家の嘲笑
 松隆くんを促すように桐椰くんが返事をした。松隆くんは「じゃあ帰るよ、疲れたから早く寝たい」と立ち上がる。私が入っているだけで微妙な空気が充満する第六西から一刻も早く出ていきたいのはやまやまなので、有り難く激しく首を縦に振る。桐椰くんは片手だけ挙げて答え、松隆くんと二人で手を振って教室を後にする。


「……桜坂、遼と何かあった?」


 そして、どうやら桐椰くんの態度は松隆くんから見ても妙らしい。第六校舎を出た瞬間、訝し気な表情が向けられた。以前、桐椰くんが不機嫌だったときには理由を知っていたらしいから、今回は全く別のことに原因があって、それは松隆くんも関知してないことだと分かる。

 そしてその原因は、おそらく〝幕張匠〟だ。


「……あのー、さ。桐椰くんって、幕張匠と何かあったの?」

「え? アイツと幕張匠?」


 初耳だとばかりに松隆くんの眉間に皺が寄せられた。じゃあ松隆くんが知らないことなのかな。


「何もなかったと思うけど……。何、幕張匠の元カノってバレた?」

「うーん、似たような感じ?」


 そっか、松隆くんに訊かれたとき、幕張匠が彼氏だったとかそういうことは否定しなかったっけ……。あんまりにも誤魔化したり嘘を吐いたり色々してるせいで、自分の中でもどう整合しているのか分からなくなってしまいそうだ。

 そうだねぇ、と松隆くんは腕を組んで考え込む素振りを見せる。


「んー、遼と幕張……」

「そもそも松隆くんは幕張匠に会ったこと……っていうか、見たことがあるの?」

「あぁ、会ったことがあるよ」

「え!」


 とんでもない返事に思わず叫んでしまった。オーバー過ぎるリアクションになってしまったけど、松隆くんはいつもの私の演技の一環だと思ったらしく、それに対しては特に反応を示さなかった。


「もう二、三年前だけど。まぁ、ほら、遼と一緒にやんちゃしてた時期にね」

「嘘だ……」

「嘘吐いてどうすんの、本当だよ」


 だって、私は松隆くんに一切見覚えはない。松隆くんみたいな人を忘れるはずがない……けれど、それはあくまで性格面でだ。顔だけなら、ただ綺麗な顔の人だなぁ、程度で終わってしまうかもしれない。


「……でも、喋ったことあるわけじゃないよね」

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