第二幕、御三家の嘲笑
「じゃ、俺も教室行くから。彼氏彼女のふりしなくて良くなったっていっても仲良くするんだよ」

「余計なお世話だっての」


 子供をあやすような言葉をかけて立ち去った松隆くんに、桐椰くんは舌打ち混じりの返事をした。別に仲が悪いわけじゃないんだから気にしなくていいのに。


「何でそんなこと気にしてるんだろうねー、松隆くん」

「あれは気を付けろって意味だよ。お前が俺達の誰の彼女でもねーのに仲良くしてんのが気に食わねぇヤツが多いだろうが」


 ……なるほど。そういえば御三家が尋常ならざる人気を誇っているのは今目の当たりにしてる通りだった。一人で夜道を歩くなんて暫くできないかもしれない。


「じゃあちゃんと送迎してね」

「持ち回り制にしてぇな」

「月影くんはやめてね! 腕っぷし頼りにならないから!」

「まあ暫くは俺が送ってやるよ。松隆家の次男に怪我させるわけにはいかねぇからな」


 丸めた雑誌でポンッと軽く頭を叩かれた。じゃあまた桐椰くんとお喋りする帰り道になるわけだ。


「ここ最近は一人で帰らせてたくせに心配になってきたの? 紳士だねー、桐椰くん!」

「総に言われたから仕方なくだよ! テメェそろそろマジで殴るからな!」


 ちょっと赤面しながら憤慨しても意味がないですよ、桐椰くん……。まるで誤魔化すように「雑誌返し忘れたじゃねぇか」なんて言って雑誌で肩を叩きながら先に行ってしまう。待ってよ遼くーん、と追いかけると「名前で呼ぶな!」と丸まった雑誌が物凄い速さで頭上スレスレを通過した。



 今日という日もここ一週間と何も変わることなく平和に終了した放課後。雨の降る外を一瞥して溜息を吐く。今週は後半は晴れるけれど前半三日間には綺麗に雨マークがついていた。暫くは足元が汚れて靴下が濡れて、なんて状態を甘受しなければいけない。


「桜坂、帰ろう」

「お?」


 と、教室の外から呼ばれて驚いた。松隆くんだ。目を点にしたのは桐椰くんも同じで、帰る準備を整えてから揃って松隆くんのもとへ向かう。


「どーしたの?」

「お前がコイツ送ってくれんの? 有り難いな」

「え、雨の日にわざわざ代わるわけないだろ?」


 にっこり、なんて擬態語がついてきそうな爽やかに輝く笑顔が答えた。コノ腹黒ヤロウ、と内心で罵ったのは絶対私だけじゃない、桐椰くんもだ。


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