第二幕、御三家の嘲笑
「あぁ、うん。一言二言だから、喋った内に入らないよね。そもそも幕張が無愛想で寡黙だからな」


 その通りだ。下手に顔を突き合わせて話してて女みたいだとか思われても困る。そう考えて、あんまり喋らないようにしていたし、幕張匠の声が分からないとぼやく人も多かった。

 だからこそ、私の中での雅は例外だった。その意味でも、私にとっての雅は特別だ。恋人でも家族でもない、ただの特別な親友。


「こっちが話しかけてもうんともすんとも言わないし。言葉は受け取った、了解、みたいなのを目だけで伝えて来る感じ」

「ああ……」


 多分その通りだと思う。伝わっていたようで何よりだ。ついでに松隆くんに全く見覚えがないのも合点がいった。話しかけた、という言い方は不穏な関係でなかったことを意味する。幕張匠は不穏な関係にある相手以外は顔を覚えていない。必要がないから。


「それで、桐椰くんも同じように会ったことがあるの?」

「うん。だって――」


 記憶を探るように虚空に視線を遣っていた松隆くんの目が、不意にぱちぱちと瞬いた。何か心当たりを見つけたらしい。


「あぁ……なるほどね」

「え、なに?」

「いや。そういうことか、と思ってさ」


 なるほどなるほど、と松隆くんは笑った。くすくすと、相変わらずだなぁ、とでも聞こえてきそうな様子で。


「なになに?」

「大丈夫、心配する必要ないよ。本当、アイツは義理堅いというか、不器用というか」

「松隆くんの、一人で納得して教えてくれないの、よくないと思いまーす」

「桜坂だって俺に何も教えないんだから、お相子ってやつだよ」


 ふむ、まぁ確かに。桐椰くんと違って、松隆くんは私から何かを聞きたそうな素振りはみせない。それどころか、桐椰くんの妙な態度の理由が判明して眉間の皺がとれている。こんなにじめじめ暑いのになんでそんなに爽やかな横顔をしてるんだ。


「松隆くんって気温感じてなさそう」

「まさか、暑いよ」

「球技大会で汗かいてたら人間だって思ってあげるね」

「残念ながら新陳代謝はいいほうだし血も赤色だよ」


 うーん、やっぱり松隆くんの返答にはそつがない。いつだって平然と涼しい顔で何でもやってのけちゃうんだよなぁ、とその横顔を見ていたけれど――不意にそれが不愉快気に歪んだ。それどころか苦虫を噛み潰した。


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