第二幕、御三家の嘲笑
「そもそも私が誰かとデートするなんて言ってないじゃん……」
「することになったら嫌だから」
「心配しなくてもそんな予定ないよ」
「予定ないならいいよね?」
「そういう意味じゃないんだけど……」
もしかして雅、松隆くんの前で話すのも反って好都合だなんて考えたんじゃないだろうか……。松隆くんが前にいると一緒にいるのを見られたら困るとかそういうことを言うことができない。
「……っていうか、雅と一緒にいるの見られたせいで面倒臭いことになったんだけど」
「メンドクサイ?」
「御三家と仲良しなくせに外部に彼氏がいるとか言われてさー」
「ん、じゃあ付き合う?」
「付き合わないよ……」
私の目線に高さを合わせて屈んだ雅の額を掌で押し返す。右手を使おうとしたら松隆くんの手に掴まれてたせいで左手になった。それに気づいた雅の目が苦々し気に歪む。
「……放してくれない? その手」
「……どうでもいいんだけどさ」
松隆くんの手が離れた。こんな暑い日なのに松隆くんの手は冷たいから、やっぱり松隆くんは人間じゃない。
「菊池雅。お前、本当に桜坂の元カレか?」
「ん? そーだよ、じゃなきゃこんなスキンシップ許してもらえるわけないじゃん」
私の両手を握った雅を、松隆くんの言葉に動揺しなかったという意味では褒めてあげたい。さも当然のような距離感を保つ雅を白い目で見つめたいのを堪えていると、松隆くんの目は不審げに細められる。
「仮にも終わった関係だっていうのに、随分と慣れ慣れしいんだな」
「だって俺と亜季はお互いに嫌いになったから終わったわけじゃない」
雅は綺麗に嘘を吐いている。松隆くんは恋人関係という点で終わったと話しているのに、雅が念頭に置いているのは相棒という名の信頼関係だ。その意味で雅は嘘を吐いている。でも、その信頼関係が終わったのは、私と雅のどちらかが――もしくは両方が――相手のことを嫌いになったからじゃない。
「じゃあ何、今更復縁しようって?」
「俺はそうしたいよ。だって、」
私が口を挟んだのを認識しながらも、雅は構わず続けた。
「俺はあんな終わり方に納得してない。あんな風に一方的に終わらせられても、亜季のことを忘れられない」