第二幕、御三家の嘲笑
 その台詞自体は松隆くんに向けられていたのに、私に贖罪(しょくざい)を促すように聞こえた。思わず表情を変えてしまった私は、狡いのだと思う。マスクで半分も隠れた雅の表情が目に見えて変わったのだから。


「あ、いや……そういう意味じゃない。亜季がいなくなったのを責めてるんじゃない……」

「……いいよ。本当のことだから」


 私が幕張匠であることをやめたのは、私が、耐えられなかったからだ。


「……雅、いいよ。土曜日、デートしよう」


 酷く、重い感情が渦巻いている。たった一人私の手を取ってくれた雅の手を、私は一方的に放した。前触れなく、理由(いいわけ)もなく、謝罪もなく。私の我儘で幕張匠の親友にしたくせに、私の我儘で他人になった。


「でも、私、雅と元に戻るつもりなんてないよ」

「……いいよ、それでも」

 私の手を握る雅の手が、少しだけ力強くなった。懐かしい感触だった。ずっと前にも、こうして手を握ってくれてたことがある。


「亜季と一緒にいられるなら、関係の名前なんて二の次だから」


 雅は、私に優しすぎるんだ。何も言わずに雅を捨てた私を、それこそ雅は過去の人間にしてもよかったのに。きっとそうしてしまったんだろうと思ってたのに、雅は未だ優しくしてくれる。謝罪をするように(こうべ)を垂れて、私の両手を握る雅の手に額を押し付けた。


「……ごめんね」


 その時の松隆くんの表情を、私は知らない。


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