第二幕、御三家の嘲笑
「遼くんが出るのって何試合目?」

「二試合目じゃない? あーっ松隆くんと被ってる……」

「大丈夫、録画しとく」

「ナイス!」

「あたし、地味に月影くん見たいんだよね。月影くんは――」


 御三家の話題で持ち切りの更衣室が精神的に暑苦しくて外に出た。げんなりとした表情の私の後ろから、続いて薄野(すすきの)さんが出て来る。スポーツ仕様なのか、私と同じくポニーテールだった。私を見ると「あ、今日はコンタクトなんだね」と一声かけてくれる。


「御三家の桜姫ちゃん、そこそこかわいーんだからいつもそうしとけばいいのに」

「え? あー……ありがとう……?」


 謎の呼び方にきょどってしまった。しどろもどろした返事の意味を察した薄野さんはおっとりと、片手の拳を片方の掌に載せた。


「あー、これね。桜坂さんのこと、そう呼ぶ人がいるんだ。二次元みたいでいいなーって思って、あたしも呼んでみた」

「すごく恥ずかしいね」

「いーじゃん、役得だよ、役得。あの御三家に唯一気に入られてるんだから、もっと楽しんだほうがお得だよ」


 なるほどと頷きそうになって間違えたことに気付いた。何も納得できない。残念ながら私は奴隷から友達に昇格した程度だ。

 そのまま別れるタイミングを見失い、二人でグラウンドの方へ向かう。


「御三家の桜姫ちゃんって競技何なの?」

「テニス。……呼び方変えてもらってもいい?」

「んー、じゃあ亜季? 亜季はテニス経験者?」

「ううん、体育でやっただけ。薄野さんは?」


 名前で呼ばれるなんて吃驚したし、生徒会なのになぜ敵意を向けられてないんだと思ってしまったけれど、薄野さんが図書委員に収まっている理由を思い出せばそんな疑問はやや解消された。薄野さんが一般生徒を虐げる姿は見たことないし、指定役員だから生徒会も怖くないし、二次元以外興味ないから御三家にも興味ないし、私を嫌う理由もないわけだ。実際、薄野さんは余所余所しい私にケタケタと可笑しそうに声を上げた。


「みんなふーちゃんって呼ぶから、それでいーよー。芙弓(ふゆみ)でもいーけど、長いもん。あたしもねー、テニスなんだけど、運動苦手なんだよねー。ダブルスなんだけど、ペアの子もそうだし、初戦敗退して体育館で涼もうかなーって感じ」


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