第二幕、御三家の嘲笑
 芙弓よりふーちゃんのほうが長いけど、そこは特に触れずにおいた。


「うちは環境いいから本当お得だよねー。体育館広いし、テニスコートも人工芝だし、グラウンドも広いから運動部競合しないし」


 花高の体育館は、一体どこの競技会場なんですかと訊ねたいくらい豪華だ。お陰で空調がほどよく効いてて夏場でも涼しい。体育館で涼むというのはそういう意味だ。因みに、テニスコートは屋内もあるけど、今回は屋外にあるコートを利用する。元々、テニス部は炎天下での練習が必須といって屋外を利用してて、屋内コートは雨天用で少し数が少ないからだ。


「亜季はシングルス? ダブルス?」

「ダブルス。シングルスはテニス得意な子の専売特許みたいなとこあるもん」


 因みに私は八橋さんとペアだ。私とペアを組みたがる子なんていないので、必然的に発言力のあまりない八橋さんがあてがわれている。


「確かにそうだねー。運動苦手なの?」

「んー、そこそこ、かなぁ。苦手ではないと思う。水泳は得意だよ」

「あー、水泳といえばこの間の授業で舞浜達にやられてたよねー」


 ははは、とでも聞こえそうな他人事の笑い声だった。嘲笑ではないし、事実他人事だし、特に気に障ることはなかったけれど、なんで知ってるの、と怪訝な目は向けてしまった。するとさっきの笑い声は爆笑に変わった。


「あはははは、知らないわけないじゃーん! だってあの松隆くんがぶち切れたんだよ? 俺達の桜坂を溺れさせたクソ女は名乗り出ろ、でないとお前もこうなるぞって机蹴って! 知らない人はいないってー!」

「いや、あの……俺達の桜坂とか言ってないし。クソ女とも言ってないし、机は蹴ったけどお前もこうなるぞとは言ってないし……」


 噂には尾ひれがつきものらしい。私に手を出すことは御三家に喧嘩を売るのと一緒だと言っただけだ。


「本当二次元だよねー! 傍から見てるのマジで面白いもーん」

「薄野……ふーちゃんは御三家に興味ないんだっけ?」


 二次元っぽいって言うなら興味があるんじゃ?と首を傾げると、あはは、と今度は乾いた笑い声が漏れた。


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