第二幕、御三家の嘲笑
「分かってないなー、亜季は。二次元はね、ハッピーエンドが約束されてるからいーんだよ。どーんなブスでも中身を見てくれるイケメンがいるの。俺にしなよって選択肢を与えてくれるような優しい噛ませ犬のイケメンがいるの。忘れられないイケメンのことは、忘れなくていいか、忘れさせてくれるイケメンがいるようにできてるの」


 どきりと、心臓が少し跳ねた。相手がイケメンに終始していることを置けば、その苦悩は……。

 まるで自身に経験があるように、流れるように挙げられた例示。私の表情が一瞬固まったのを見逃さなかったのか、はたまた気が付かなかったのかは分からないけれど、ふーちゃんは誤魔化すようににっこり笑って両頬に人差し指を当てて茶化す。


「ねー、こんなの、二次元ではどれかが百パーセントの確率で起こるのに、三次元では一体何%なんだろうねー? 殆どゼロだよ、ゼロ! こんなんじゃ落ち着いて恋なんてできないよー」

「まぁ……うん、そうだね……?」


 それは恋をしたときに落ち着かない理由であって、恋をできない理由にはなってないと思ったのだけれど、黙っておいた。

 校舎を出ると、真夏の日差しがテニスコートを焼いていた。テニスコートが並ぶ敷地の真ん中あたりに掲示板が設置されて、トーナメント表が貼ってあった。さすがに外に電子パネルを設置するのは雨風に晒されてしまうことから避けたんだと思う。予算の問題じゃないことは体育館内にある電子パネルを見れば分かる。テニスに参加する男女に混ざって自分の名前を探していると、一番隅に見つけた。桜坂・八橋ペアは、第一試合で、一年三組と当たるらしい。名前は見たところで知らない人なのでどうでもいいや。


「桜坂、一年とか」


 そのままトーナメント表から視線を外すと、私の後ろから松隆くんの声が聞こえた。くるりと振り向くと、逆光に輝く茶色い髪を揺らして笑ってる。


「今日はコンタクトなんだね」

「うん、運動するし。松隆くんって何が楽しくてそんなにいつも笑ってるの?」

「辛辣な挨拶だなぁ。楽しいから笑うんじゃなくて楽しいから笑うんだよ」

「松隆くんは思ってなさそう」

「そうだね、思ったことないね」


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