第二幕、御三家の嘲笑
 私と松隆くんの遣り取りはいつもそうだ。お互い見る気なんてない表層をさも仲良さげに撫でている。そんな松隆くんは、嫌いじゃない。未だトーナメント表を見ている人のために移動すると、松隆くんもついてきた。


「松隆くんは誰と当たるの?」

「三年の誰か」

「誰?」

「名前なんて見たって知らない相手だよ」

「あはは、分かる」


 同じ思考に笑った。ちらりと視線を向けると、松隆くんの手にあるのは学校の備品じゃなくて、少しだけ古い、個人所有のラケットだった。


「松隆くん、テニスは趣味程度って言ってなかったっけ?」

「あぁ、俺のじゃないよ。兄貴が昔使ってた古いやつ」

「あー、なるほど」


 松隆くんのお兄さん……経営を学ぶためにアメリカ留学中って言ったっけ。


「でもねー。勝つと次に当たるのが鹿島なんだよ」

「え、じゃあ生徒会は願ったり叶ったりじゃん」

「ね。一年でインハイ出場経験あるヤツに勝つなんて流石に無理」

「お兄さんはテニス強いの?」

「それこそインハイ出てるよ」


 使い込まれたラケットの様子を見てそう訊ねたのだけれど、思った以上の解答に頬が引きつった。


「……松隆くんとお兄さんって顔似てる?」

「似てるね」

「松隆くんのお兄さんの大学はどちら?」

「慶王」

「……今はアメリカ留学中?」

「よく知ってるね」

「スペックが最早化け物だね!」

「よくいるよ、そんな人」


 そんなことないと思うけどな。松隆くんは眩しそうに目を細め、手を掲げて影を作りながら、くるくるとラケットを掌の中で回す。


「ま、少なくとも俺はテニス上手くないし。今回の本命はバスケかな」

「桐椰くん運動神経良さそう」

「桐椰家の遺伝子は運動神経の塊みたいなもんだから。彼方兄さんも遥もめちゃくちゃ運動神経いいよ」

「松隆家の遺伝子は腹黒さの塊ですか?」

「代々聡明だと言ってくれ」

「痛い痛い!」


 にっこりと笑顔のまま頬を思い切り抓られた。松隆くんに頬を抓られるなんて今までなくて目を白黒させながら解放された頬を押さえて動揺してしまう。


「これは桐椰くんの専売特許では!?」

「傍から見てて楽しそうだったからつい」

「私とイチャつきたいなら早く言ってね! あとできれば人が見てないところでやってくれないかな!」


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