第二幕、御三家の嘲笑
 そして射殺さんばかりの女子の目。縮み上がる私を松隆くんが鼻で笑った。まさかここまで計算済みの行動だったというのか。おそろしや、リーダー。睨みつけていると、ラケットの面で軽く頭を叩かれた。


「そういうわけで、熱中症には気を付けてね。気温はまだまだ上がるらしいし。今日はプールじゃないから生徒会の心配はないけど」

「はーい、お気遣いありがとうございます」


 そのまま、ひらひらと手を振って松隆くんは男子コートのほうへ行ってしまった。そして、松隆くんがいなくなったのを見計らったようにひょいと八橋さんが女子集団の中から顔を覗かせる。


「あの、桜坂さん……私達、第一試合……」

「あ、うん、そうだね。もう入るのかな?」

「九時半からだから入った方がいいと思う……」


 八橋さんの前髪は普段通り目を少し覆っていた。テニスをするのに邪魔じゃないのかな。

 八橋さんに抱いた感想はそのくらいで、しかもとても世間話になるような話題じゃなかったので私は黙る羽目になった。文化祭の準備で絆創膏を借りたくらいしか接点がない八橋さん。クラスでも大人しいし、桐椰くんが泣かせたくらいしか情報がない。


「……桜坂さん、テニス、ダブルスやったことある?」

「んん、ない。シングルスも体育の授業でやったことあるくらい」

「じゃあ、なるべく私が前衛に回ってもいい? 中学のとき前衛のほうができたから」

「あ、うん! 助かるよ」


 正直前衛も後衛もまともにできる自信なんて微塵もない。ついでに八橋さんはテニス経験者だという情報が私の中で追加された。


「でも、下手で、ずっと試合出れなかったから。あんまり気にしないでね……」

「私なんて授業でやっただけなんだから、そんなのよりマシ――」


 愛想笑いを交えながら答えようとして、思わず口を噤んだ。コートに整列したとき、目の前に立っていた二人の一年生は体操服の代わりに白地にピンク色のラインが入ったトップスとミント色のミニスカートを履いていたからだ。

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