第二幕、御三家の嘲笑
経験者かよ。硬直した私と八橋さんが心を通じ合わせた瞬間だった。二人は揃って同じスポーツブランドの黒いサンバイザーを被っていて、髪もそれぞれポニーテールとツインテールでプレイの邪魔にならないように避けられていた。私達とは気合の入り方が違う。なんならツインテールの子が私を頭から爪先まで眺めてきた。
「ぷっ……。桜坂センパイですよね?」
今笑ったよね?
「……そうだけど」
「御三家の桜姫のですか?」
「別に姫じゃないけど、そうだね」
「えー、本当にこんな平凡――なんていうか、聞いてた通り、あんまりくどい顔じゃないですね」
全然フォローできてないんですけど?
「よく言われるよ」
「御三家の誰の趣味なんですかぁ?」
「髪が黒いところだけ桐椰くんの趣味だと思うよ」
「えー、桐椰センパイの? あ、っていうか、桐椰センパイとは付き合ってないんですよね? この子、桐椰センパイのこと好きなんですけどぉ」
つん、と人差し指が、ポニーテールの子の頬を小突いた。小突かれたその子はにっこり笑って口を開く。
「桜坂先輩、桐椰先輩の彼女じゃないなら、あんまり馴れ馴れしくするのやめてくれませんか? 桐椰先輩、優しいから断れないんですよ」
「そうですよぉ。桐椰センパイと付き合ってるふりしたり、松隆先輩と一緒に帰ったり、桐椰センパイを振り回さないでくださいよぉ。断れないタイプだし、ああ見えて遠慮しちゃうとこもあるんですよぉ」
桐椰くん、後輩に「桐椰センパイのことよく分かってますよ私達」の体で語られてるけど大丈夫かな。多分彼女達よりも私のほうが桐椰くん分かってると思うんだけどな。桐椰くんを知ってる時間は同じくらいだけど、多分揶揄った回数なら誰にも負けない。
審判役の子がやって来たところで「まぁ、いいんですけど」とその子は口を閉じた。
「ウィッチ?」
「ラフ」
「あぁ、そっちのセンパイ、テニス経験者なんですかぁ?」
ツインテールの子が、即座に答えた八橋さんに話しかけた。私相手でなくとも鼻にかかる喋り方をする子だ。八橋さんが頷き、ツインテールの子がくるりとラケットを回す。
「……ラフですね。どっちがいいですかぁ?」
「……サーブ」
「じゃ、私達、こっちのコート貰いますねー」
「ぷっ……。桜坂センパイですよね?」
今笑ったよね?
「……そうだけど」
「御三家の桜姫のですか?」
「別に姫じゃないけど、そうだね」
「えー、本当にこんな平凡――なんていうか、聞いてた通り、あんまりくどい顔じゃないですね」
全然フォローできてないんですけど?
「よく言われるよ」
「御三家の誰の趣味なんですかぁ?」
「髪が黒いところだけ桐椰くんの趣味だと思うよ」
「えー、桐椰センパイの? あ、っていうか、桐椰センパイとは付き合ってないんですよね? この子、桐椰センパイのこと好きなんですけどぉ」
つん、と人差し指が、ポニーテールの子の頬を小突いた。小突かれたその子はにっこり笑って口を開く。
「桜坂先輩、桐椰先輩の彼女じゃないなら、あんまり馴れ馴れしくするのやめてくれませんか? 桐椰先輩、優しいから断れないんですよ」
「そうですよぉ。桐椰センパイと付き合ってるふりしたり、松隆先輩と一緒に帰ったり、桐椰センパイを振り回さないでくださいよぉ。断れないタイプだし、ああ見えて遠慮しちゃうとこもあるんですよぉ」
桐椰くん、後輩に「桐椰センパイのことよく分かってますよ私達」の体で語られてるけど大丈夫かな。多分彼女達よりも私のほうが桐椰くん分かってると思うんだけどな。桐椰くんを知ってる時間は同じくらいだけど、多分揶揄った回数なら誰にも負けない。
審判役の子がやって来たところで「まぁ、いいんですけど」とその子は口を閉じた。
「ウィッチ?」
「ラフ」
「あぁ、そっちのセンパイ、テニス経験者なんですかぁ?」
ツインテールの子が、即座に答えた八橋さんに話しかけた。私相手でなくとも鼻にかかる喋り方をする子だ。八橋さんが頷き、ツインテールの子がくるりとラケットを回す。
「……ラフですね。どっちがいいですかぁ?」
「……サーブ」
「じゃ、私達、こっちのコート貰いますねー」