第二幕、御三家の嘲笑
 サーブを選んでもコートを選んでも何が違うのかは分からなかったけれど、一年生の二人はコートが決まった途端にサンバイザーをコートの外に放り投げた。なるほど、彼女達の背に太陽があるから、眩しくないならサンバイザーがないほうがボールが見やすいんだ。

 やっぱりガチじゃん、と私と八橋さんは再び心を通じ合わせた。


「あぁ、桜坂センパイが後ろなんですね」


 ネット際に残る八橋さんを見て、ツインテールの子が眉を八の字にした。


「ザーンネン。さすがにこの距離で顔面に当てる技は持ってないなぁ」


 怖い。さすがに硬式のテニスボールが顔面に衝突するのは怖すぎる。ボールを手にする私の顔はひきつった。これは早々にこのコートから退散したほうがいい。八橋さんも同じことを思っているらしく、私のほうを向いて激しく首を縦に振った。幸か不幸か、この一年生を相手にするお陰で八橋さんとは仲良くなれそうだ。

 私がベースラインに立ったのを確認した審判役の子がピーッと笛を吹く。スタートの合図だ。さすがに公式戦の掛け声はないんだな、と自分の頭の中で無駄な知識をひけらかしてしまった。大して緊張もしない球技大会で、ボールを一個握って、ひゅっ、と投げる。

 パコーン、と、景気のいい音が響いた。私の手にあるラケットからではなく、ツインテールの一年生の手にあるラケットから。

◆◆◆

 結果は、予想通りの五対〇。一年生のペアも私達も、それぞれ別の意味で汗もかかずに試合を終了した。ネット際でスコア表を受け取りながら、二人の一年生は笑う。


「やっぱり、五ゲームだと短くてつまんないですよねぇ。んー、七ゲームでも大差ないかなぁ」


 完全に虚仮(こけ)にされている。でも、実際、相手の子がミスしなければラブゲームだった。ぐうの音も出ない。


「こんな人が御三家の姫とか、がっかりですぅ」


 だから姫じゃないって言ってるじゃん!と言いたいのはやまやまだったけれど、一言えば

十の嫌味が返ってきそうだったので黙っておいた。よしよし、私は大人だぞ。

 取り敢えず、八橋さんと顔を見合わせてじゃんけんして次の審判を決めた。八橋さんがすることになったので、私はとぼとぼとコートを後にする。松隆くんが日陰で涼んでいるのを見つけたのでその隣に行くと、「相手の一年生、そこそこ上手かったね」と笑われた。


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