第二幕、御三家の嘲笑
「見てたの」

「そりゃ見てたよ。暇だから」

「御三家のリーダーは女の子に人気だから女子が群がって大変なんじゃないかと思ってた」

「まぁね。でもさすがにテニスの子しか来てないから。体育館の惨劇が目に浮かぶよ」


 女子が群がるさまを惨劇と表現するなんて……。よっこいしょ、と松隆くんは立ち上がった。


「今から試合?」

「うん。応援してくれるの?」

「まー、リーダーですから」

「そっか、じゃあ頑張ろうかな」


 ぽん、と今度は手で頭を軽く叩かれた。挙句、にやりとでもいった擬態語でも聞こえそうな笑顔を残していく。つまり、私が松隆くんと仲良くすることで女子に睨まれるのを楽しんでいるのだ。性格悪い!

 松隆くんの試合があるコートの近くの日陰は、第二試合が始まる前から女子で一杯だった。松隆くんがコートに入っただけできゃーきゃー黄色い歓声が聞こえて、今更ながら松隆くんって一体何様……違った、何者なんだろうと、誰に向けるでもなく胡乱な目をしてしまった。ついでに、この暑い外で塊になるなんて冗談じゃないので日向に立つ。このコートの近くを離れたら日陰はあるけど、折角応援するとは言ったし、見える位置にはいよう。ただ、ギャラリーの女子はそっとしておいてはくれず、じろりと次々に私を睨んだ。


「あれでしょ、二年の桜坂って」

「誰? コンタクトにしたら可愛いって言ったヤツ。フツーじゃん」


 喋り方からしてどうやら三年生のお姉さま方だ。日陰の真ん中にいるのは生徒会役員かな。どこにいても権威の象徴らしい。

 その後も口々に謂れのない非難を浴びせられていたけれど、ピーッ、と笛の音がするとピタリとそれは止んだ。試合が始まったからだ。どうやら松隆くんがサーブらしい。その手がボールを放って、もう一方の手がラケットを引いた。

 パァンッ、と軽快な音がしたかと思ったら、すぐに「きゃーっ」とか「松隆くーん!」とか、とにかく黄色い悲鳴が審判のジャッジを掻き消した。私だって、歓声こそあげないものの目を剝いた。サービスエース。相手の三年生だって唖然としている。松隆くんはさも当然のように数歩移動してカウントを待っている。その視線を感じて、審判がはっと口を開いた。


一五(フィフティーン)‐〇(ラブ)」


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