第二幕、御三家の嘲笑
 あとはもう松隆くんがサーブを打たずともギャラリーが騒ぎ立てる。趣味程度だって言ったくせに。嘘吐き。

 多分、松隆くんと相手の三年生との実力差は先程の私達の試合と同じくらいあった。ストロークの球速が違う。お陰でラリーも殆ど続かず、失点は松隆くんが一度ボレーをネットに引っ掛けたくらいだった。

 早々に第二試合は終わり、最早松隆くんの試合よりも、松隆くんの試合を見る女子の台詞集を脳内で作っていた状態だった。きゃあきゃあ騒ぐ女子が、おそらく三年の生徒会役員筆頭に松隆くんにタオルとかスポーツ飲料を渡している。松隆くんは笑顔で受け取るものだから、それを向けられた女子は熱中症かと思うほど顔を真っ赤にして卒倒する勢いだ。


「うーわ、相変わらず人気だね、御三家の松隆は」


 隣に出来た影に振り向く前に、誰かが私の心を代弁した。聞き覚えのある声に振り向いて――息を呑む。


「鹿島くん……」

「次は俺となんだってさ、松隆は」


 そんなことは聞いてないし、興味もない。テニス選択だとは知ってたけど見当たらなかったし、まさか話しかけて来るとは思ってなかった。お陰で少しばかりたじろぐけれど、鹿島くんは無反応だった。


「久しぶりだね、桜坂?」

「……どうも」

「そう警戒するなよ。俺、君に何もしてないだろ?」

「……なんで知ってるの」


 鹿島くんと二人で話すのは、文化祭の最終日以来初めてだった。お陰で、ずっと脳の隅に引っかかっていた(わだかま)りを漸く口に出す。鹿島くんは「何のこと?」と惚けてみせた。


「……幕張匠のこと」


 松隆くんに口の動きさえ見られないよう、咳でもするように口の近くを軽く握った拳で隠しながら、小声で訊ねた。


「そう言うってことは、桜坂に心当たりはないんだ? 俺が知ってることに」

「……ない。花高の生徒会長をするようなお金持ちってステータスにすら、ピンとこない」

「へぇ、そう」


 教えてくれる気はないようだ。ここでは、人目を憚って詳しく問い質すことのできない私が圧倒的に不利だ。


「……じゃあ、もう一つのことを教えて」

「もう一つ?」

「名前を出したときに続けた言葉の意味」

『君に託したのは、幕張匠である君を、御三家の姫に仕立て上げるためだ』

 そう言えば、鹿島くんは理解した。「あぁ、」なんて笑う。


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