第二幕、御三家の嘲笑
「そのままの意味だよ」

「……ダブルミーニング?」

「いや。そのままの意味だよ」

「……だとしたら、繋がらない」


 その台詞を額面通り捉えることはできる。透冶くんの遺書を私が見つければ、御三家は少なからず私に感謝する。それゆえに、御三家が私を無下にすることは――他の女子と同じように扱うことは――なくなる確率が高い。実際、今や私は、御三家にとってただの友達であるという事実はさておき、周囲からは〝御三家の姫〟なんて認識されている。

 でも、だから何なのだろう。私が幕張匠であることと、御三家の姫になることとは、何も関係がない。御三家が幕張匠と親しいなんて噂を流して、幕張匠に恨みを持つ不良に御三家を潰させたいとでもいうのだろうか? それならもうとっくに手を打ってていい。大体、そんな回りくどいことをする必要もない。火を点けられて爆発する種なんていくらでもあるし、それはきっと桐椰くんの現在と松隆くんの過去の所業で十分だ。


「なんで、私と御三家が仲良くする必要があったの」

「悪いけど、松隆との試合に備えてアップしときたいんだよ」


 数々の私の疑問に一つたりとも答えず、鹿島くんは立ち去った。去り際に、松隆くんがしたように私の頭を軽く叩いて。待ってくれと声を上げることすらできない私は、やっぱり不利だ。

 私と鹿島くんが話し終えたタイミングを狙ったように、松隆くんは知らない女の子のタオル片手に、鹿島くんの背中に視線を向けながら私のほうへやってきた。


「何話してたの、桜坂」

「べつにー……敵情視察みたいな感じだったんじゃない?」


 適当に答えた後、自分の言葉に気付いて考え込んでしまう。敵……。鹿島くんにとって、私は敵なのだろうか。それにしては、私と相対するときの鹿島くんは殺気染みた憎悪どころか嫌悪すら向けない。大体、私と鹿島くんに接点はない。


「ふぅん。そんなことしなくても、インハイ出場者さんは余裕だと思うけどね」

「そうだ、松隆くん、趣味程度って言ったくせにすごく上手かったじゃん」


 嘘つきだ、と頬を膨らませると、「嘘じゃないよ、本当に趣味でしかやったことないから」と肩を竦められた。


「あんなに上手かったのに」

「褒め言葉ってことだね。特に練習してるわけじゃないから」

「運動神経いいんだ……」

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