第二幕、御三家の嘲笑
「勝ったよ。お前は負けてここにいんの?」

「だーって相手の一年生ガチだったもーん。テニスウェア着てたんだよ」


 はーあ、とわざとらしい溜息をつくと「そりゃ災難だったな」と鼻で笑われた。桐椰くんの視線はそのままバスケットコートに移る。


「お、また入った」

「ねー。二年一組の、四番のゼッケンつけてる人、上手いよね」


 また同じ人が、今度はレイアップを決めたところだった。


「バスケ部のレギュラーかな?」

「……お前何言ってんだ?」


 すると、桐椰くんが怪訝な目を向ける。


「あれ、駿哉だぞ」


 ……え?

「え!」

「降りてよく見ろよ」


 信じられない名前が出て来て、慌てて桐椰くんと座席のほうへ降りる。最前列は女子で埋まっていたけれど、コートからそう離れてないので、三列目からでも十分に選手の顔は見えた。

 四番の青色のゼッケンをつけているのは、色白で、細身で、黒い髪をハーフアップにしてる男子。眼鏡はない。ただし、いつも私にくどくどと説教と文句を垂れる優等生を頭に思い浮かべ、そこから眼鏡を取り外すと、完全に一致。


「え!! 月影くん、スポーツ苦手じゃないの!?」


 文化祭のBCCのときに運動神経悪くて体力ないからって断ったじゃん!と表情だけで付言すれば、桐椰くんは「あー、ほら、アイツ無駄に謙虚だから、」と平然と言ってのけた。


「習わないとできないものを得意とは言わないし、そもそもアイツの中で標準のレベルが高いわけ。俺と総ほど運動神経は良くねーし、実際アイツはバスケ以外はそんな得意じゃねーよ。体力も底なしじゃねーし、持久走させたら中の上くらいか?」

「それ運動神経悪くないし体力なくないよね!?」

「将来の夢が医者だからな。外科医になったときに体力ないのは駄目だって言って小学生のときからバスケやってんだよ、アイツ」


 あの月影くんなら言ってても間違いないし、寧ろ物凄く考えそうなことだ。


「で、でも勉強は……天才ではないとはいえ才はあるとかなんとか……」

「勉強は模試の順位って分かりやすい指針があるから秀才って自負してんだけどな。アイツにとっちゃ小学生のときからバスケやってんだから周りより出来るのは当たり前だし、寧ろそれ以外は人並みにしかできないから、自称運動神経が悪い」

「御三家は嘘吐きばっかりだ!」


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