第二幕、御三家の嘲笑
 もうイヤだ。結局御三家が女子が異性に望むものを総なめしてるじゃないか。

 そうこうしているうちに月影くんが次々と点を取り、二年一組は大差で三年生に勝利した。月影くんだと分かってから全くカッコよく見えなくなったせいで、他の女子と違って私は白けた目でコートを見つめるしかできない。


「御三家ってスペック高いよね……」

「ま、そーだな」

「うわ、自分で言ってる。やーい自惚(うぬぼ)れ屋!」

「だったらなんて言って欲しかったんだテメェは」

「ごめんなさい文句ないです」


 むに、と頬が抓られて慌てて謝った瞬間その指先が離れた。随分短いお仕置きだ、と頬を押さえると、桐椰くんは不審な顔をしている。きょとんと首を傾げて見つめ返していると、なぜか改めて頬を引っ張られた。


「……あの?」

「……お前痩せた?」

「あー。夏だから仕方ないよね」


 うんうん、とそれらしい理由を付けたのだけれど、桐椰くんはあまり納得の色を示さなかった。それどころか、むにむにむに、と指が頬を摘み続けている。どうやら不審さが拭えないようだ。何に対する不審さかは、知らないけれど。


「お前、顔から痩せる?」

「そうだねー、太るときも顔からかなー」

「ふーん……」

「どーでもいーんだけどさ、桐椰くん」


 ただ、本当にそんなことはどうでもいい。先程まで月影くんを応援していた女子が桐椰くんを凝視していた。原因は火を見るより明らかだ――私の頬を摘み続ける桐椰くんの指。半ば呆然とした視線に桐椰くんは気が付かなかったらしい、自分のやっていることを自覚した瞬間に硬直した。あーあ、お馬鹿だなぁ、桐椰くんは。


「……なにをしてるんだお前は」


 呆れた月影くんの声が、最早動けなくなっていた桐椰くんを我に返らせる。幼馴染の声は流石に効いたのか、桐椰くんの指は「離れる」なんて表現にそぐわないほど勢いをつけて離れた。赤面して、動揺しているのを誤魔化すように、その両手は肩にかけているタオルを握っている。やれやれ。

 代わりといってはなんだけど、試合を終えたばかりで汗をかいてる月影くんを見上げる。コンタクトのせいか、いつもと違ってあまり優等生感は溢れていない。


「月影くん、バスケできたんだね」

「人並みを〝できる〟というかは知らないが、できないわけではないな」


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