第二幕、御三家の嘲笑
 理屈っぽい。眼鏡を外したところで中身は変わらない。折角の爽やかなスポーツ少年が台無しだ。なんならちょっとチャラい。


「で、遼、お前は?」

「何がだよ!」

「次の試合の話だが」

「…………あと三十分経ったら始まる。一年六組とだよ」


 バスケ以外の話と勘違いしたのか、一度桐椰くんは声を荒げてみせたけれど、またすぐに萎んだ。三十分ということは、途中から松隆くんの試合が始まってしまうことになる。


「桐椰くん、私の応援欲しい?」

「調子に乗るなよ」

「痛い、拳骨は痛いです」


 頬を触ることに抵抗を感じたらしく、脳天に拳が押し付けられる。月影くんはそれでも白い目を向けているけれど。


「あのね、松隆くんの試合と被っちゃうから。見ててほしいならいてあげるよ?」

「だから誰もお前に見てほしくなんかねーよ!」

「えー、元カノの応援ある方がやる気でるでしょ?」

「だから早くその設定を捨てろ!」

「外は暑いから桐椰くんの試合が終わるまでは見ててあげるね」

「勝手にしろよ……」


 ツッコミを入れる気も失せたのか、桐椰くんは額を押さえて深い溜息を吐いている。


「月影くんは?」

「暫くは休憩だな。とはいえすることもない……」

「勉強道具持ってきてねーの? お前らしくねぇな」

「流石にこんなところに持ってくるほどじゃあない。うるさい(やから)が多くてコンディションも悪いしな。ところで、あと一試合勝てばお前と当たるぞ」

「え、マジで? お前どこだよ」

「ブロックが同じだっただろう、見てなかったのか」


 ほう……。どうやら、上手くいけば御三家同士で当たるらしい。そこで漸く、今朝の更衣室での女子の会話に合点がいった。どうして月影くんの名前が聞こえてたんだろうと首を捻ってたけれど、みんなは月影くんがバスケ得意なことを知ってたのか。それでもって桐椰くんと当たるとなれば見ないわけにはいかないのだろう。


「ついでに、俺とお前が当たった後、勝ったほうが二年三組と当たる」

「なんだ、誰がいるんだよ」

「生徒会会計役員の萩原だ」


 桐椰くんの横顔が一瞬だけ強張った。透冶くん事件の原因は解明されたとはいえ、透冶くんが就いていたその役職は、会計。そこに現在居座る萩原くんは、鹿島くんの親友兼腹心だと聞いている。


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