殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない
「そうよ! お父様はザルハッシュ王太子殿下に、あなたを諦めさせたかったの! 私を王太子妃に、将来的には王妃にして、我がチムニア公爵家の地位を確立したかったのよ! 喜んで協力してくれた! けれど私は、眉目秀麗で我が国の数少ない魔法の才能を開花し、魔塔すらも牽引するザルハッシュ殿下の愛情が欲しかった! ザルハッシュ殿下があなたに向ける愛を、私に向けて欲しかった! あなたが憎かったのよ!」

 チムニア嬢は感情的に叫びながら、ボロボロと涙を零す。

「お願い! お願いだから命だけは……」

 とうとう心からの命乞いを始めるチムニア嬢。けれど私は次第に興醒めしていく。

「思っていた通りね。昔も今も、変わってない。……はあ、つまらなくなってしまったわ。それでは、ご機嫌よう」

 クルリと檻に背を向け、扉に向かって歩を進める。と言っても扉は水圧で開かない。扉に手をかざし、魔力を流して魔法で通り抜けた。

「いや、待って! 嘘でしょう!? どうして子爵令嬢ごときが魔法を使えるの!? 嫌よ……嫌ぁぁぁぁ!」

 扉の向こうからは、悲壮感漂う令嬢の声。けれど私の心には響かない。

 だって、まだまだだもの。前世の私が叫んだ断末魔に比べれば、遠く及ばない。

 これからの事を考えると、少しだけスッキリするかしら? 暇さえあれば取り巻き令嬢達を使って、何かと絡んできていたから、鬱陶しかったの。

 私の家は子爵家。だから法律上の観点から、決して王太子とは結ばれない。

 チムニア嬢が父親である宰相に頼まず、私が伯爵令嬢になれていたとする。それでも政治的な観点から言えば、根っからの公爵令嬢には勝てなかったはず。

 そもそも勝ち負けで言うなら、私は負けたくて仕方ないのよ?

 だって人は醜くて汚い生き物。生涯を通して他人と嵌め合い合戦するなんて、考えるだけで面倒。

 清らかに生きようとした前世と違い、今世は人間の苦痛に歪む顔を見ると楽しくなる。他人を平気で殺してしまいたくなる悪虐精神が身についてしまった。

 何故かいつも邪魔されて、未だに誰も殺せていないのが悲しいわ。

 王家の人間達が、私のそんな加虐思考を見抜けないはずがない。

 5歳で出会って以来、ザルハッシュ王太子には何かと絡まれるようになった。身分の低い子爵令嬢だから素顔を晒せば、無駄に面倒事に巻きこまれる。

 そういうのが嫌だから、常に微笑みを貼りつけているけれど、隠した事もないし。

 とは言え、ザルハッシュ王太子には既にバレている。私が王太子の相手に相応しくない事くらい、彼もわかっているわ。

 チムニア嬢も公爵令嬢という、王太子妃に1番近い立場にいる。正しいアプローチを続けるだけで、いずれは王太子との婚約を認められたはず。

 そう考えると頭も行動も、残念令嬢だったのね。

 きっと今日こそ、邪魔は入らない。今までの殺人が全て未遂に終わってきたから、今回こそは細心の注意をしてチムニア嬢を罠に嵌めたもの。

 これで目障りなザルハッシュ王太子ともサヨナラよ。

 明日には腐乱死体が出来上がって、明後日には死体が発見される。末端貴族の私に、そんな情報が届くのは……来週くらい?

 ああ、とっても楽しみ!

 私はワクワクしながら、その場を後にした。
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