殺意強めの悪虐嬢は、今日も綱渡りで正道を歩む ※ただし本人にその気はない

殺意まみれのエピローグ

「また邪魔をしたのね。昨日、小型録音機を紛失した事に気づいたのだけれど、犯人はあなた?」

 夜会が終わり、ザルハッシュ殿下と2人きりになってから、ため息混じりにそう告げた。

 対面にソファがあるのに、この人はどうして隣に座るのかしら? イラッとしてしまうわ。

 結局、夜会の間も、今現在に至るまで1人になれていない。気分転換ができていないせいで、メンタルがただ下がりよ。

「当たり前だろう、ウェル。はい、録音機。少し借りただけだよ。感情が壊れている今の君が、他人に関心を向けるのは殺意を持った時だけだ。私に殺意を向けてくれないのに、他の誰かへ殺意を向けるなんて……」

 差し出された録音機を受け取ろうと手を伸ばす。

 すると私の手を引いたザルハッシュ殿下は、流れるような動作で私を抱きしめた。

「許せるはずがない」

 私の真っ白な髪に口づけながら、歪んだ言葉を口にする。

「まるで愛しているかのような口ぶりね」
「ウェルが私の言葉を一生を通して信じなくても、私の愛はウェルの物だよ。私はウェルしか愛さない」

 不快な言葉に思わず眉根が寄る。

「虫唾が走るわ。王女だった私を裏切って、火炙りにしたくせに」
「そうだね。前世の私は、王女だったウェルに忠誠を誓った。専属護衛騎士として守るべきウェルを……裏切った。そのせいでウェルは国王を含む親兄弟に冤罪を捏造され、拷問を受けた末に公開で火炙りなんていう、長く苦しむ方法で処刑されたんだ」

 ザルハッシュ殿下は今、どんなつまらない顔を作って、下らない事をほざいているのかしら。

 そんな風に、ふと興味が湧く。

「生まれ変わったからと言って、私も含めて他人を信用なんてできるはずがない。それくらい、王女だったウェルは苦しみ抜いて死んだ」

 興味を満たそうとしたものの、剣ダコのある大きな手で私の頭を自分の胸に押さえつけてきて、見られない。

 痛くはない。

 けれどこんな小さな事ですら、私の邪魔をするなら……ザルハッシュ殿下を殺してしまう?
 
「ウェルが、5歳で私と出会うまで黒耀石のように黒く艷やかだった髪。互いに前世を思い出した翌日から、徐々に真っ白に変わっていった。それくらい、ウェルの心を壊してしまった」

 10歳のザルハッシュ殿下と初めて会ったのは、私が5歳の時。あの頃の髪色は、確かに黒かった。

「そう思うなら、私の邪魔をしないで。あなたを殺したくなる」
「私はそれでも良いよ?」

 今度は邪魔されず、大きな胸から顔を離せた。

 ザルハッシュ殿下の頬を両手で包み、瞳を覗き見る。

「私は私に危害を与えない者は殺さない。それだけは決めてあるの。私があなたを殺そうとするなら、それはあなたが私を殺すつもりで傷つけようとした時よ」

 
 言いながら、目と目を合わせて観察する。

 前世ではあなたの裏切り(殺意)に気づかなかった。今世でも、彼の瞳の中に、私への殺意を見つけられない。
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