画面越しじゃ、満たされない


--・-- ・- -・-・ -・-・・ -・ 


『えーっと……503号室……503………』


『……ちょっと!
人の部屋番号、声に出さないで。
というか、廊下は静かに歩いてください』


『あ、ここや。ついた』


『…………はい。
今、開けます…………』


『…………………………』




「っ…………………………本当に、居る」


「こんばんは、ハルちゃん」


「…………こんばんは、ナギくん」


「えーっと…………あがってええ?」


「いや…………う……はい……。
……………………どうぞ」


「お邪魔します。
……うあ〜〜〜あったかぁ〜〜〜〜。
わ、お洒落な部屋やなぁ」


「ちょっ、あんまり見ないで!
……飲み物淹れますから、適当に座ってください。
えーっと……あ、紅茶飲めますか」


「うん。ごめん、ありがと」


「はぁ……もう。
ナギくんじゃなければ、ストーカーとして通報してるところですよ?」


「あ、俺やったらええんや。ラッキー」


「ぐ…………………はい、どーぞ。アールグレイです」


「わぁ、ありがとう。
…………まぁ、うん。確かに強引すぎた。ごめん。
でも……どうしても伝えたいことがあってさ」


「伝え……たいこと…………あ!」


「え、どうしたん」


「……私こそ、伝えなきゃ。
もー。今回の襲来が衝撃的すぎて、
危うく言い損ねるところでしたよ」


「何を?」


「すごく…………大事なこと」


「え」


「気の利いたことは……言えないんですけど………」


「う、うん………」


「……待って。
私……ちゃんと伝えられるかな…………」


「え…………ま、まさか………………?」


「ナギくん……」


「…………ハルちゃん」


「ほんとうに…………
ほんとの、ほんっっっとに…………!」


「うん……………!!」


「……お…………」


「……………………"お"???」


「っ…………おめでとう……ございます……!
悲願の……初優勝っっっ……………!!!!」


「えっ……………………。
あ、ああ……。
うん…………まぁ、そうか。
そうよな、うん……。
ありがとう…………」


「え。なんでそんなガッカリしてるんですか」


「……ハルちゃんが意味深な前置きするからやん。
『ちゃんと言えるかな』、とかさぁ……」


「だって……うまく言葉にできないんですもん。
あの優勝シーンを思い出すだけで、尊くて……胸が苦しくて……。
何度、救急ダイヤルが脳裏をよぎったことか……!」


「え、絶対アカンで?そんな迷惑行為」


「チーム全員で掴んだ優勝なのは、間違いないんですけど……
にしても!ラストのナギくん、主人公すぎですよ!
あれ以上のドラマがありますか!?」


「いやー。アレなぁ……。
結果的に、うまくいったから良かったけどさぁ。
後から冷静に考えたら、無謀な行動やったって思うよ。
でもあん時はもう……
"絶対決める"って、それしか頭になかったな」


「すごいです……歴史に残る名場面ですよ。
観客席も、実況席も……相手チームまでも、
全員がスタンディングオベーションでしたもん」


「相手チーム……やっぱ強かったな。
その上、みんな良い人でさ。
試合の後、お互いのチーム全員で褒め合いしたんやで。
翻訳アプリ駆使しながら」


「えっ、なにその素敵ほっこりエピソード。
いいなぁ……ゲームが繋ぐ絆、ですね」


「うん。
最強のライバルで…… 最高の友って感じやな。
みんなに出会えて、よかった。
ハルちゃん……ほんまにありがとう」


「……ええ?
お礼を言いたいのは、私の方ですよ」


「え、なんで」


「……あのね。優勝が決まった瞬間……
音割れするほどの歓声の中、
SC(Share Comet)のみんなが、一斉にナギくんへ飛びついて……泣きながら抱き合って……。
それから、全力の笑顔でトロフィーを掲げる姿を見た時にね……。
なんというか……」


「うん……」


「"——あ、全部がここにあるんだ"、って思いました」


「……ゼンブ?」


「そう。
夢も努力も奇跡も友情も愛も……言い表せないけど、全部。
その全てが輝きになって…………心に降り積もったんです。満たされてくのが、わかったんです。
あの感覚は、きっと忘れられない。一生の宝物」


「ハルちゃんの……宝物…………」


「はい。ナギくんのおかげです。
ずっと見たかった光景……
キラキラでいっぱいの景色を、
魅せてくれてありがとう。
幸せをくれて………………本当にありがとう」


「……こんなに喜んでもらえたら、嬉しいわぁ。
頑張って良かった」


「あぁ……やっぱり……今思い出しても……。
な………なっ………………泣けるううっ……!」


「えーーー!?ちょおまって。
ほらハルちゃん、タオルタオルっ」


「あり……がとう……っ」


「はは。決勝から2日も経ってもーたけど、
まだそんなに熱持ってくれてるんや」


「そうですよ!
この2日間ずっと冷めなくて……。
今日もまだ、朝目覚めて一番に出てきた言葉は
『おはよう』じゃなくて『おめでとう』でしたし」


「え。待って?それ誰に言うたん」


「いや……独り言として呟いただけですよ?」


「あぁ、それなら良かったわ。
ハルちゃんの朝一番の言葉、すぐ側で聴いた奴がおったらどーしようかと思った」


「え……なんか発想怖」


「急に冷静なるやん」


「いや、誰のせいですか。
はぁ……もう。返してくださいよ。
さっきまでの激アツテンション」


「俺だって返してあげたいよ。
なんで失われたん?」


「………………ナギくんって、
なかなかに"残念なイケメン"ですよね。
勝手に家来たりするし……」


「勝手とちゃうやん。
ちゃんと事前に言うたし」


「あ、イケメンは否定しないんだ。
まぁ事実ですけど」


「というかさぁ……覚えてる?
『世界一獲れたら、聞いてほしい話ある』って言うてたの」


「あ、そういえば……
そんなこと言ってたような……」


「ヒド」


「……いやそれ、今日じゃなくても良かったのでは?
ただでさえ疲れているでしょうに。
そんな大きな荷物持ってまで……」


「だから。一番に会いたかったんやって」


「っ……もう!
それこそ言ったじゃないですか。
そういうの……『勘違いしそうになるからやめて』って」



「————"勘違いじゃない"って言うたら?」



「え……………………?
……………………ってか、あの。
なんか………………ち……近い、です……」


「あのさ、ハルちゃん」


「……はい?」


「…………ぎゅーって、していい?」


「っえ!?
ぜ、絶対ダメ!……うわぁっ!!」


「……………………」


「ちょ、ナギくん…………離してください」


「……………………やだ」


「ヤダって…………そんな子供みたいな……っ
待って、ほんとに離して。心臓出る」


「無理」


「っっっ…………なんで……!」




「好きだよ」




「え」


「俺、ハルちゃんのこと……本気で好き」


「ほん……え……スキ…………???」


「あれ……ほんまはもっと、伝えたいこと山ほどあったんやけど。
はは、なんでやろ…………"好き"しか出てこんわ」


「なっ……ど……急にそんな…………」


「いや、ずっと前から言いたかってんで。
でも"一人前になってから"って、自分で決めてもーたからさぁ。
あー、やっと言えた…………嬉し」


「な……なんで…………どうして………っ」


「えー?理由は伝えてきたつもりなんやけどなぁ。
俺に夢をくれて……かつ、毎日のように真っ直ぐ熱烈な愛を伝えてくれたハルちゃんのこと、
好きにならん方がおかしくない?」


「あ……愛って……そ、そーいうのじゃ……
私は……その……ガチ恋のつもりではなくて……
というか……そろそろ離して……っ」


「この場合、俺がハルちゃんのガチ恋勢やね」


「っ……………………ドッキリですよね」


「え…………まだ信じられへん?」


「はい」


「……それさぁ。
今の俺の顔みても、同じこと言える?」


「っは………やっと解放された……
死ぬかと思った…………」


「ねぇ、聞いて。
……こっち向いてよ、ハルちゃん」


「……いやいや。ナギくんの顔って言っても。
絶対、余裕そうに笑ってるだけでしょ……って……
あれ………………赤い………」


「…………伝わった?」


「……………………」


「……ハルちゃんは?
俺のこと………………好き?」


「えっ…… わ……わたし、は…………」


「……うん」


「…………私はね、
ナギくんがくれる、"非日常"が好きなんです」


「ヒニチジョー」


「そう。私の日常は……
自分で叶えたい夢も、自慢できる特技もない私の日常は、同じことの繰り返しばかりだけど……。
ナギくんが見せてくれる世界だけは……特別なんです。
自分が"生きている理由"を感じられるんです。
これからもずっと、そうであってほしい」


「なるほど。
ってことは…………どういうこと?」


「……つまり。ナギくんには今後とも……
"世界を照らす推し"で居てほしい、という話です」


「わかった。
つまり、"俺のこと好き"って話でいい?」


「……いや、どうしてそうなるんですか。
ゲームのプロなのに、恋愛初心者?」


「え、ゲーム関係なくない?
……しゃーないやん。初心者なのは。
こんなに人を好きになったん、ほんまに初めてなんやもん」


「………………」


「ってかさぁ。
ハルちゃんには、俺しかおらんと思うけど?」


「……はい?」


「自分でも言ってたやん。
『ハルちゃんの中心には、俺しかおらん』って」


「そ……それは………………っ」


「俺ならハルちゃんに、
"幸せ頭打ち"なんて思わせへん自信しかないし」


「う……うぅ…………」


「ってことで、良い?」


「な、なにが……」



「俺と付き合って」



「ぐっ…………………………」


「………………ハルちゃん?」


「う…………ダメ…………断れないいぃ」


「……断りたい?」


「………………わかんないですよ。
だって、ナギくんはずっと……推しで、憧れで……
本当なら画面の向こうの人で……
だから、この気持ちが……恋か愛か、なんて……」


「それなら簡単やん」


「え?」


「要するにさぁ…………
俺と出来るかどうか、よなぁ?」


「な、なにを……」


「決まってるやん。
"恋人たちがするようなこと"」


「はい??????」


「……試してみていい?今」


「え、待っ……む、むり……!!!!!」


「ハルちゃん、ほら」


「ほ……ほんとにまって……一旦離れて……っ」


「口閉じて」


「っ〜〜〜〜〜〜〜!!!!!!!!」


「……………………」


「……………………」


「…………………どう?わかった?」


「…………………………」


「……あれ。固まってもた。
おーい、ハルちゃん?」


「もうムリ……………overkill(オーバーキル)


「うーん。この程度でオバキルかぁ。
この先進めるの、いつになるんやろ」


「………………」


「言うとくけどさ、
こっちは約3年も我慢してるんやで」


「そ、それはナギくんが勝手に……!!」


「あ、確かにそやな。
ごめんなぁ?勝手に我慢してもーてて。
ではお望み通り、これからは遠慮なく」


「そういう意味じゃない!!」


「大丈夫。安心して身を任せて。
俺がキャリーしたげるからさ」


「………………求:脱出口」


No escape(脱出不可能).」


--・-・ --・-- -・- ・---・ 
< 22 / 24 >

この作品をシェア

pagetop