画面越しじゃ、満たされない

「『これからも傍にいる』って言ってよ」



・-・-- ・・ ・-・-・ -・- 


『…………もしもし』


『もしモモちゃん』


『変な略し方しないでください』


『昨日はありがとなぁ。楽しかったわ』


『……それは良かったですね』


『え……モモちゃんは?』


『……おしゃれイタリアンからのゲームセンター、
ギャップが凄くて風邪ひきそうでした』


『いやー、今思い出しても……
モモちゃんの音ゲー捌き、凄まじかったな』


『ナギくんこそ。
レーシングゲームまで上手いとか化け物ですか。
ぶっちぎりでしたね』


『いや、あれはモモちゃんが下手すぎただけやって。
逆走からの周回遅れってさぁ……どんだけよ。
CPUとばっかり良い勝負すんやもん。妬けるよなぁ』


『世のため人のため、運転免許証は絶対に取りません』


『そんでさ、』


『はい』


『次どこ行く?』


『はい?』


『オーソドックスに映画……それか動物園とか?
ちょーどオフやし、いっそ旅行でも行く?』


『……そ、そういえば。
オフ期間って、みなさんどう過ごされるんですか?』


『……モモちゃん。話逸らすんも下手やなぁ』


『うっ……うるさいでございますよ』


『んー。オフはオフらしく、ゲームのこと忘れて外遊びに行く奴が多いかも。
もちろんゲームもするけど』


『そーいえば、チームメンバーで海とかキャンプに行ってる写真あがってましたね。
ほんとに仲良しなんだなぁって実感』


『仲良いを越して、もはや兄弟みたいなもんよな。
この1年で、ほんまの家族の声よりメンバーの声のが聞いてるんちゃうか、なんて思うわぁ』


『いいなぁ……羨ましい。
大人になると、そんな関係性ってなかなか作れないですからねぇ』


『そーやんなぁ。
俺は、特に恵まれてるなって思うよ』


『そうなんですか?』


『うん。
……プロになってみて分かったけど、メンタル維持ってかなり大変でさ、』


『はい……』


『どれだけ活躍してる選手でも……1回のミスで、すぐに苦言が飛んでくるんよ。
DM(ダイレクトメッセージ)とかで』


『えぇ……?そ、そんな……』


『んでさ。
そのミスが、チームを敗北へと導こうもんなら……
"批判"なんて可愛いもんじゃない、"侮辱や人格否定レベルの言葉"が、数え切れんほど沢山やってくるんよなぁ』


『え…………???』


『ゾッとするで。試合終わって見てみたら、
"え、そこまで言う?"のオンパレード。
開けてびっくり玉手箱状態よ』


『し、信じられない……。
それでなくとも、みんなは相当な重圧の中で戦っているでしょうに……。
なんでそんな……精神的に追い詰めるような…………誰も得しない、そんなことを…………』


『正直……わざわざそんなことをする人の気持ちは、一生かけても理解できる気はせんなぁ。
仮に、何かしらの事情があるんやとしても』


『そう……ですね……』


『"そういうのも受け止めるのがプロだ"なんて言われたら、そこまでなんやけど。
でも俺らも人間やから……全く気にならんって人は少ないんちゃうかな。表で明るく振る舞っててもさ。
俺には、喉元まで出かかって飲み込んできた言葉……いっぱいあるわぁ』


『そりゃそうですよ!
理不尽も全部受け止めろなんて、馬鹿げてます。
誰よりも真剣に、直向きに努力してるみんなの元に、道徳を無視したような酷い言葉……届いてほしくない』


『はは。モモちゃんみたいに理解ある人ばっかりなら、どれだけ幸せかわからんな。
誹謗・中傷なんて、言う人にとっては、その場のノリとか、軽〜い気持ち程度なんかもしれんけど……』


『………………』


『その一言が、少しずつ……たくさんたくさん刺さっていってさ。
いつしか自分を責めるしか出来んくなって……。
そうやって心を蝕んだら、次は、
試合のことを考えると動悸がしたり、震えが止まらんくなったり。健康を害する状況にまで追い詰められて。
最後には……選手を辞めなあかん時が来てしまう』


『…………そんなの……悲しすぎます。
みんな最初は、"楽しい"の気持ちで始めたはずなのに。いつか引退する日が来ても、その日は笑って……"幸せだったな"って、そんな気持ちで迎えて欲しいのに……』


『な。俺もそうありたいって思うよ。
あれ……ごめん。すーげぇ重い話になってもたな』


『いえ……』


『とにかく。こんな環境やからこそ、
お互いの気持ちが痛いほどわかって、お互いに支え合えるチームメンバーがいてくれて、ほんまに俺は恵まれてる。
みんなのこと、宝やと思う』


『本当に素敵なチームですね……。
心から信頼し合ってるんだなって、試合中も、試合外でも伝わってます』


『もちろん、応援してくれるファンのみんなの支えもあるし、』


『うんうん』


『そんで……』


『?』


『俺には、モモちゃんもおる』


『っえ!?
いや、そ……そんな……私は何も……。
……悔しいくらい、何もできていないです』


『まー、わからんやろな。
モモちゃんの存在が、どれだけ俺を救ってくれたかなんて』


『えぇ……』


『いっつも俺が折れそうになる時、モモちゃんの熱のこもった応援が、心の真ん中に飛んでくるねん。
そのおかげで、"あー。俺、大丈夫やわ"って思えてる』


『だって私……ただ思ったことを言ってるだけで……』


『計算も打算もないモモちゃんの素直な言葉が、俺にとって嬉しい言葉やから元気出るんよ。もっと頑張りたいと思えるし。
ほんま、いつも感謝してるんやで』


『お……お役に立てているなら何より……』


『と、いうわけで。次どこ行く?』


『……………………』


『メンタルケアって、大事よなぁ?』


『…………わざと断りにくい流れにしましたね?』


『そんな……ヒドイわぁ……
俺がそんなことするような人に見えるん?』


『白々しい』


『ま。とにかく、考えといてな。
ほな、練習いってきま』


『ぐっ…………いってらっしゃい』


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