熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 けれど、彼にただ甘えることは負担をかけてしまうことになるかもしれない、と架純は思ってしまった。
 なぜなら、今までは祖父同士の繋がりがあったからこそ理人は年の離れた架純を婚約者として迎えることに承諾したのかもしれないからだ。
 普通に考えて、心臓の病を抱えている女性と結婚することのリスクは、彼が医者を目指しているのなら当然わかっていることだろう。
 仮に理人が架純に親切にしてくれたとして、それはひょっとしたら許嫁として紹介された日から今日までの元婚約者に対する情なのかもしれないし、彼が興味を持っているのは架純の心臓病の症例かもしれない。そんなふうにも考えてしまったのだ。
 なぜなら、理人が架純本人に好意を見せたことなんて一度だってなかったから。
 その後――。
 なんの因果か、理人は心臓専門の外科医となり、大学病院からこちらへ移ってきて、架純の通っている十和田総合病院に勤めている。離れている間にも彼は難しい手術の経験を積んできたようで、彼にしかできないオペがあるといわれるほどの腕前があるらしいと噂で聞いた。それから程なくして心臓外科に通院していた架純の主治医となったのだった。
 運命の再会というのはあまりにも皮肉だった。しかし破談になったことを気にする架純に、理人は「婚約破談のことと、医者としての責任は別ものだ」と言い、架純にやさしく親身に接してくれた。そのときから、架純の胸の中には彼に対する淡い想いが彩りはじめていた。
 ――現在、架純は二十六歳。理人は三十二歳。お互いにだいぶ大人になって年を重ねた。病をわずらう架純はさておき、彼の方はもうとっくに誰かと結婚していてもおかしくない年齢だ。見目も麗しく優秀な医師である彼のことを放っておく女性はいないだろう。それでも未だに独りでいることに架純は安堵していた。
 架純は理人と再会してから、皮肉にも過去の彼に対してだけではなく今の彼に対しても惹かれるものを感じ、いつの間にか彼に恋をしていたのだ。ともすれば、やはりかつて彼に向けていた信頼や淡い気持ちは初恋と呼べるものだったのかもしれない。
 そして今……病院通いを続けるうちに、定期健診を受けるというよりは、すっかり彼に会う楽しみの方が優先になっていて、恋心がどんどん深みにはまっていくのを感じていた。
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