熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
 心臓に病を抱え、日常に制限のある架純には、友だちを作る機会が今までも少なかった。相談する相手は必然と顔の知らないチャット友達になっていた。そして今メッセージをくれたハルとは架純が翻訳の仕事をはじめて少ししてから繋がった相手で、今年で三年の付き合いになる。
 もちろんプライバシーには気をつけているし通院していることは告げても心臓病のことは明かしてはいない。ただ、好きな人が医師であることだけは相談する上で説明が必要だった。
 リアルの友達がいないことは寂しかったが、面と向かっては言えないことを、チャット友達には素直に打ち明けられた。そして同じようにチャット友達も言いにくいことをはっきり言葉にしてくれる。顔は見えないし声を聞いたこともない。画像やスタンプや文字のやりとりだけ。でも、それがかえって心地よかった。
 そして今回もモヤモヤしていた気持ちをハルに打ち明けたのだ。
『想っているだけで幸せというのは、相手にパートナーがいない間だけだと思う。側にいて辛いと感じたら、そのときはもう引き際じゃないかな』
 ハルのいうことは的を射ていた。
「その通り、だよね」
 それに身体に不調を及ぼしてしまったら、理人に余計な心配をさせてしまう。今回だって彼のやさしさに甘える形になってしまったのだ。一旦家に戻るのが本当だとしても、彼だってすぐに身体を休めた方がいいに決まっている。あんなふうに彼が前以て言い添えたのは、架純が気を遣わないようにしてくれただけ。彼の純粋なやさしさがそうしてくれたのだ。
 元婚約者という『切り札』をいつまでも甘えて利用していてはいけないと思う。せめて彼の足手まといにはなりたくない。
 潮時、という言葉が喉元に刺さる。
(転院……した方がいいのかもしれない)
 昨日今日で衝動的にそう考えたわけではない。実は去年あたりからずっと架純は検討していたのだ。ただ昨日の一件が決定打になったのは事実だった。決断したら迷う前に行動した方がいいだろう。


 翌週、架純は新たに診察の予約をとった。最近は月に一度の定期健診以外でお世話になることがなかったので、余計な心配させていなければいいと、やさしい理人のことを想う。
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