熱情を秘めた心臓外科医は 引き裂かれた許嫁を激愛で取り戻す
『先生は以前に別問題だと仰いましたが、元婚約者がいつまでも主治医であるということは、好きな人ができたら……その、やっぱり気にしてしまいますし、新しい恋愛がやりづらいというのが本音です』
 好きな人はこれからできるということなのか、それとももう既にいるのか。架純が他の男と一緒になるかもしれないと考えると、いてもたってもいられなくなった。
 これはただの独占欲でしかない。みっともない執着心でしかない。わかっている。
 だが――。
 今までは私的な感情で動かないように抑えてきた、そのつもりだったが、失ってからでは遅いのだと改めて気付かされた。
(悪いが、俺は君を手放したくない)


***


 理人からの次の誘いはそう遠くない日に訪れた。
 架純は断る理由を考えながら、チャット友達のハルに相談しつつ、それでも結局は理人の誘いを断り切れずに誘いに応じることになった。
(ちょっと私、意思が弱すぎるわ)
 きっと画面の向こうにいるハルも呆れてしまっただろう。数少ない友達なのに、こんな体たらくじゃあもう相談に乗ってくれないかもしれない。
 あれこれ自己嫌悪に陥りながらも、それでも理人に会えることの方が嬉しくて、デートに着ていく服はどんなものがいいか慌ててリサーチするなどして家政婦の町田を驚かせた。ほんとうに自分のことが滑稽に思う。それでも止められないだからもう仕方ない。
 相手が理人だとわかると彼女は安心していたが、当然、疑問には思っただろう。
 町田は久遠家と高辻家のかつての許嫁の事情を知っている。もうとっくに二人の関係は離れていて、理人と架純がただの医師と患者でしかないと捉えている。だからか、町田は架純を見送る玄関先で心配そうにしていた。
「町田さん、心配してくれるのは嬉しいわ。でも、私ももう二十六よ。来月には二十七になるわ」
「わかっていますけれど……」
「もう、そんな顔をしないで。先生だったら安心でしょう?」
「それはそうですが……私は、架純さんが傷つくようなことがあったらと思うと……」
「私もにとっても息抜きになるし、先生にはこの間ごちそうになったお礼がしたいの。お礼もしないでサヨナラなんて……よっぽど失礼でしょう?」
 架純の覚悟が伝わったのか、町田は渋々といった様子だが、ようやく納得してくれた。町田には転院のことはもうしばらくしてから報告した方がよさそうだ。
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